【日日是好日】春はもうすぐそこですよ 羅漢寺次期住職 太田英華

西日本新聞

 一雨ごとにやって来る春。次第に和らぐ陽光の下、冬の間に蓄えていた生命の息吹が一斉に動きだす季節。柔らかな風に乗って漂う沈丁花(じんちょうげ)の香り。1羽の鶯(うぐいす)が上手に鳴くと仲間の鶯が「私も上手よ」と「ホーホケキョ」。

 花が咲くことを、昔は笑うと。白梅が笑い、紅梅が笑う。桜や木蓮(もくれん)のつぼみが少しずつ膨らみかけている様子は、春が来たら一斉に呵呵と大笑いしそうです。のどかな山間のさまざまな景色。本堂正面のパノラマは冬から春に変わってきました。

 3月は卒業シーズン。私も行脚姿で名古屋の修行道場から帰山した4年前。帰ってきて早々に高箒(たかぼうき)を担いで1人で参道を掃除する日々。今では働いてくださる方々が増え、眠っていた石畳の旧参道が見違えるように奇麗に。

 この旧参道、室町時代には既に出来上がっていた全長約一キロの石畳。先日、旧参道入り口の草取りをしていると、声を掛けてくれた押し車で散歩途中の近所のおばちゃん。腰は90度に曲がってしまっても矍鑠(かくしゃく)とした御年90歳。

 「誰かと思ったら羅漢の英華さんやない。あんた掃除しよんの」「そうそう。できる人がやらなきゃね」

 「へえ~。わしが元気なら手伝うんになあ」と言いながら手は草をワシワシ毟(むし)ってくれている。

 「おばさんいいよ。有難う」「何が有難うかね。わしが有難うじゃら。あんた若いきなあ」「そんなに若くもないよ」「なんち!わしの半分じゃら。わしは何かしらんけど、耳は遠くないんじゃら。耳が遠い人は、長生きするっち言うけんなあ。っちわしも90やき長生きやなあ」。しまいには「何も無いけんど、お茶飲まん?」。

 おばちゃんの口癖は「迷惑掛けられんきなあ」。1人でお住まいですが、毎日ご家族や近所の方が訪ねて来られる。しばらく2人で談笑し、また、おばさんは押し車で散歩を始めました。

 外回りの掃除をしてくださっている松崎さんは現役ラガーマン。御年69。先日試合で沖縄に行ってきましたと、お土産のサーターアンダギーを手に出勤。「30人の格闘技をやって来ました。80歳の先輩はすごい」と。シニアのラグビーは年齢でパンツの色を変えており、ルールで年上の人にはタックルをしてはいけないとのこと。しかし、現役80歳のラガーマンはそうそうたる方々ですごいと。松崎さんも平気でこの山を上り下りし、黙々と外の仕事をしてくださるのですが、上手がおられるらしい。

 「多忙は怠惰の隠れみの」。ついできないと思ってしまう時に思い出す言葉。「多忙」に他の言葉が代わってもいいかも。人生頑張っておられる諸先輩方の前では常に反省。ある参拝者の男性が「年を取ったからできないじゃなくて、年をとってもできることをすればいいんだよね」と。皆さん、毎日を楽しんでますね。春はもうすぐそこですよ。

 【略歴】1967年、羅漢寺27代住職の娘として生まれる。高校卒業後、大学進学のため上京。20代半ばから40歳で出家するまでフラメンコダンサーとして活動。出家後、愛知県の尼僧専門修行道場で約5年間、僧堂修行し、2013年3月に帰山。現在羅漢寺28代次期住職として寺を守る。


=2017/03/12付 西日本新聞朝刊=

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