日本酒を味わう<記者ノート>混然一体の魅力 小宇宙に漂う

西日本新聞

 日本酒の洗礼を受けたのは大学の新入生歓迎コンパだった。まずは名簿順に前に立って自己紹介し、コップ3杯を飲んだ(飲まされた)。自席でも次々に先輩につがれた。会場は海辺の施設。泥酔して、窓から真っ暗な海に向かって古里・鹿児島の友の名を何度も叫んだ。その記憶を最後に、あとは二日酔いならぬ「三日酔い」で苦しんだことしか覚えていない。

 以来、大学時代は焼酎一筋(たまにウイスキー)。日本酒はほとんど口にすることはなく「酔いつぶすための酒」というイメージがしっかり胸に刻まれた。

 昭和最後の年に入社し、初任地は福岡県の酒どころ、筑後の久留米総局。そこで華やかな香りの大吟醸酒を味わい「こんなにおいしいものなのか」と認識を改めた。ただ「つまみは酢の物が一番」と教えてくれた日本酒通の大先輩から「フルーティーなんてのはちょっと違う」と聞かされ、頭の片隅に引っ掛かっていた。

 その引っ掛かりは今回の取材で「なるほど」に変わった。

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 日本酒は近年、大きく変わりつつある。純米、吟醸、本醸造など原料や造り方の違う特定名称酒に、淡麗から濃醇(のうじゅん)、辛口から甘口と幅広い味の種類がある。個性的な酒蔵が登場し、それらを提供する酒店や飲食店も増えている。

 「ここ5年ほどで、地元の上質な日本酒を主体にする飲食店が増えてきたと感じる」と福岡市博多区の「住吉酒販」専務、庄島健泰さん(36)は指摘する。生産者と消費者をつなぐ黒子役として目指すのは「地元の米、水、人によって造られる酒を地元の人が飲む本来の姿を取り戻すこと」。博多駅ビルの店舗ではあえて九州産のみを扱う。

 消費者側の変化も見られる。福岡市の百貨店、岩田屋本店の日本酒コーナーには「新潟の濁り酒を」などと「自分の好みや飲み方をはっきりさせて買い求める客が増えている」(担当者)という。

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 日本酒は冷酒、冷や(常温)、ぬる燗(かん)(40度前後)、熱燗(50度前後)などさまざまな温度で楽しめるのも魅力だ。次の日まで残ると、よく言われるが「燗をつければ酔いやすく、さめやすい。だから飲み過ぎず、翌日にも残らない」。燗酒をメインに置く居酒屋「かんすけ」(福岡市中央区)の店主、守田信太朗さん(41)が強調する。アルコールは体温に近いほど吸収されやすい。その点、冷酒は飲んでからアルコールが吸収されるまで時間差があるので、つい飲み過ぎてしまうという。

 燗酒は酒のおいしさもアップする。「香りに頼りがちな冷酒と違って、うま味がじわっと来て、味の幅が出る」。守田さんは「5年前までは燗酒を薦めても全然だめだった」と振り返るが、現在は「好みの銘柄の燗酒を楽しむ人が増えてきた」という。

 取材先では、純米酒以外に加えられる醸造アルコールについて語り合う機会も多かった。

 醸造アルコールを毛嫌いする人もいるが、もろみを搾る前に適量加えると、酒が本来持っている香りがもろみに残らず生かされる。「すっきりした味」にしてもくれる。高価な「大吟醸」に含まれているのもそのためだ。純米酒にこだわる人も、味覚的においしいならいいじゃないかという人も、一緒に飲んで議論すると面白い。

 今は新酒が出回る時季。火入れしていない「生酒」、炭酸がたっぷり残った発泡系、もろみを残した濁り酒などが入手しやすい。

 米、麹(こうじ)、酵母菌が混然一体となった小宇宙が、日本酒の複雑な味を創造する。取材と称して、連日この小宇宙を漂い、日本酒の魅力にようやくたどり着いた感がある。

 ◇日本酒に力を入れる飲食店主らでつくる「九酒会」は26日午前11時~午後4時、福岡市中央区の電気ビルなどで「SAKE HOPPING HAKATA」を開く。福岡、佐賀をはじめ全国各地の34銘柄と料理を提供する。入場料800円(前売り500円)で、料理と日本酒(70ミリリットル)は300円から。


=2017/03/22付 西日本新聞朝刊=

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