鮮 寿司のネタは漁に合わせ 玄界灘祝い唄(2)

西日本新聞

 福岡市博多区住吉に、大将とその母親で切り盛りする変わったすし屋さんがある。メニューなし、カウンターにネタケースなし、基本は地物だから、イクラやサーモンを食べたい客は来ない。海の都合に合わせているから、何が出るかはその日次第。わかっているのは、地物で天然ものの魚介類を新鮮なうちに処理し、ちょいと寝かせた状態で食べさせてくれること。コリコリ感はうせても、舌に感じる滋味が酒飲みにはたまらない。

 「なにわ鮨(すし)」。父親が病で倒れたのを機に尾林忠雄さん(42)が店を引き継いだのは26歳のとき。関西での修業を終えて戻ってきたものの、客は来ない。困って始めたのが、魚市場でのアルバイト。店を閉めた深夜から朝にかけて1年半働くうち、魚の見方や、いつ、どんな魚が、どこから来るのかが自然にわかるようになった。

 気になることもあった。魚の数がそろわずに投げやりな感じで扱われるトロ箱があったこと。卸の世界では雑魚扱いで、「100円、100えーん」と、気の毒な値段で取引されていた。

 「こげなんじゃ、漁師も、魚も報われんばい」。それが、今の商売のやり方の原点になった。

   ◇   ◇

 12月中旬。尾林さんは福岡市西区の姪浜漁港にいた。「11時には船が着くばい」。漁師の野上洋一さん(61)の電話を受け、博多湾で取れたばかりのハモをもらいにきたのだ。

 「オコゼもいるね?」「はい」。そんな会話を交わしながら、船上で下処理した魚を発泡スチロールの箱に入れると、バイクでさっと帰っていった。

 尾林さんにとって、こんな光景は日常茶飯。鐘崎、糸島、豊前…。「よか魚がとれたばい」。知り合いの漁師から連絡が入ると、さっと産地に駆けつける。価格は先方の言い値で。

 先日は豊前まで、トリ貝欲しさに往復5時間かけた。「送ってもらうと1日かかるから、やっぱり弱る。自分でもやり過ぎかなとは思うけど、新鮮なうちに処理できたので完璧でした」

 魚は鮮度が命。市場や鮮魚店を経由した魚もまた、プロの手で十分に氷を効かせてあるとはいえ、直取引にはかなわない。とはいえ経営的に、大将自ら産地に出向くのは、誰の目から見ても効率は良くない。魚さばきは鮮魚店に任せ、店ではネタケースに並べたさく(切り身)を切って握るだけにして、人件費を削減している店も多い中で…。

 ただ、訪れる客は言う。「なにわのネタは、『姪浜のハモ』じゃなくて、『姪浜の野上洋一さんが、えびこぎ網でとってきたハモ』なんよ。その心意気も一緒に味わえるから、皆、カウンターに座りたがるとよ」

 第3回「伝 106年 敬意を込めて干す」

=2017/01/04付 西日本新聞朝刊=

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