伝 106年 敬意を込めて干す 玄界灘祝い唄(3)

西日本新聞

 福岡県新宮町下府の住宅街を抜けると、目前に玄界灘が広がる。海岸沿いの道は一部未舗装のまま。約200メートルで行き止まりとなるこの通りには4軒の水産加工場が並ぶ。創業106年の海産物加工「進藤商店」もその一つ。駐車場はいつもほぼ満車で、狭い道と不釣り合いな高級車も車列をつくる。

 カワハギ、アジ、マダイ、フグ、サワラ、カマス、カレイ…。外国産のサバやタラのほか、玄界灘で取れる魚「前浜もの」の干物を加工場で製造し、隣接する店舗で販売している。

 江戸時代、新宮は宿場町としてにぎわい、参勤交代の大名らを玄界灘の海の幸でもてなしたという。いつしか保存の利く干物づくりが盛んになり、白砂青松の海岸に魚を干す光景が広がった。

 「嫁いできたころは漁船が浜に乗り着け、イワシを運び込み、外で丸干ししていた」と話すのは同社の進藤光代社長(65)。当時は関西の問屋に卸していたが魚離れが進み、問屋が衰退。近隣に10軒ほどあった同業者の廃業も相次いだ。

 進藤商店は営業方針を消費者への直売に転換。当初は農産物の直売所などでも売り歩いた。今では一夜干しやみりん、みそ漬けなど商品は約40品目に上り「同じ商品を買ってくれるお客さんの顔が浮かぶので商品は減らせない」。おいしさを3世代で共有する常連客もおり、売り上げの9割は個人購入で賄う。

   ◇   ◇

 海風と天日で、独特の食感と凝縮したうまみがある干物はいにしえからの知恵が育んだ伝統食品。衛生面や味の均一化を図るため、進藤商店でも機械乾燥になったが、職人が1匹ずつ丁寧にさばく手作業は変わらない。この日、加工場ではイワシを串に通し、丸干しにする作業が行われていた。

 「食いしん坊だから、こんなおいしいものをなくすのは惜しいと思って」。30歳まで会社員だった長女の美奈子さん(40)が5代目として家業を引き継ぐ。

 「マンション暮らしで煙が気になるらしくて」。遠方の孫たちにおいしい魚を食べてもらいたいという常連客の願いを受け、美奈子さんたちは焼かずに食べられるサバの燻製(くんせい)を商品化。洋風アレンジのレシピを考案するなど、次世代への魚食普及に懸命だ。

 国内の漁獲量は減少傾向が続く。主力商品の一つ、玄界灘のアジの水揚げも近年は少ない。漁師も、そして加工場で働く熟練の職人たちも高齢化し、後継者不足も切実な問題だ。

 干物のおいしさは素材、鮮度、そして職人の美しい手業が決め手。「何度もきれいに水洗いし雑味を取る。最大限のおいしさを引き出すのは魚への敬意」。美奈子さんは玄界灘のおいしい伝統をこれからも守る。

 第4回「信 プロをうならせる目と腕」

=2017/01/05付 西日本新聞朝刊=

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