信 プロをうならせる目と腕 玄界灘祝い唄(4)

西日本新聞

 5日午前5時。まだ眠りから覚めない福博の街で、ここだけは無数の蛍光灯が広い場内を煌煌と照らし、活気づいていた。

 2017年の初競りが行われた福岡市鮮魚市場(同市中央区)。「明けましておめでとうございます!」「今年もいい魚、頼むよ!」-。潮の香りとガソリンのにおいが混ざった市場特有の空気の中、「ばたばた」と呼ばれる荷役用のターレットトラックがせわしなく動き回る。今は魚を競り落とした仲卸業者が鮮魚店など小売業者を相手に商売を始める時間帯だ。柳橋連合市場で「古賀鮮魚店」を営む古賀和秀さん(48)は市場を歩きながら、通路をはみ出して積み上げられたトロ箱に目を走らせた。

 ブリ、タイ、サバ、アジ、マグロ、ウニ…。「あ、大将! これいくらかな」。ぱっと足を止め、交渉に入る。手にしているのは得意先から受け付けた注文票。最近は無料通信アプリLINE(ライン)でも受け付けているため、スマートフォンも手放せない。魚を選ぶのは、ほんの一瞬。経験で培った目を信じ、直感的に「これだ」と思うものを選ぶ。「見分けるポイントもあるけど、人も魚も第一印象よ」

 年明けから天候に恵まれた今年の初競りは例年以上の大漁に沸いた。古賀さんが市場にいた時間は約40分。まだ日は昇っていない。ドドド、ドドド…。「ばたばた」がエンジン音を響かせ、出荷先の決まった魚をトラックまで運んでいく。

   ◇   ◇

 古賀鮮魚店は客の8割がプロの料理人だ。鮮魚店が10店舗以上ある柳橋連合市場の中でも高級鮮魚を取り扱う店として知られる。

 午前6時すぎ、古賀さんは50~60種類の魚をトラックに積んで店に戻ってきた。仕出しを扱う得意先には午前中に注文の品を届けなければならない。従業員と6人体制、急ピッチで魚をさばいていく。

 「お客さんも魚のプロ。うろこ1枚でも店の信用に関わる」。古賀さんはスッ、スッと手際よく柳刃包丁を魚の肌に滑らせ、皮を薄く残してうろこを剥がす。この日一番の大物、約15キロのブリにグッと刺し身包丁を入れる。丁寧に研がれた包丁は切れ味抜群。肉厚な身の固さを感じさせない手さばきで解体していく。

 トントントン…。威勢の良い声が響いていた市場内とは一変、黙々と作業が進み、出刃包丁で魚を切り落とす音や魚を洗う流水の音だけが聞こえる。店の外はまだ真っ暗だ。

 「おはよう。今年もよろしくね」。午前7時を回った頃、ちらほらと客が店を訪れ始めた。「お、相変わらずいい仕事するねえ」。カツオの切り身に目をやった料理店の大将がほほ笑む。「ぜひ、新年もごひいきに」。

 午前7時半、魚をさばく作業も一段落し、従業員たちは配達に出かける。これからは一般客も相手だ。店の前の住吉通りは朝の通勤ラッシュが始まった。街が目覚めるころ、鮮魚店は開店準備が整う。

 第5回「希 カキ小屋からの脱出」

=2017/01/06付 西日本新聞朝刊=

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