希 カキ小屋からの脱出 玄界灘祝い唄(5)

西日本新聞

 福岡県糸島市の船越漁港。午前7時、地元の養殖業者が営むカキ小屋のひとつ「豊漁丸」の作業場に明かりがついた。沖のいかだから引き揚げたカキを選別。研磨器でカキに付着したフジツボなどを削って磨き、食べられる状態にする「こさぎ作業」の始まりだ。

 つけっぱなしのラジオに、カキを削る「ググッ」という音。黙々と手を動かす漁師たちに交じり、記者もカッパを着て選別作業をさせてもらった。死んだカキを取り除いたり、くっつきあった殻を分けたりした後、大きなものは食用、小さなものは、再び海に戻して成長させるため、網かごに入れる仕事だ。

 テーブルに積み上がったカキの山が少なくなると次がどっと盛られ、作業は途切れることなく続く。夕方、仕事が一段落した頃、この小屋を営む「豊漁丸水産」社長の仲西高志さん(69)に尋ねた。カキ小屋を始めて、何がよかったですか-。

 「冬場、近くに安定して働ける場所ができたことやろな。奥さん方も含めてな」

 糸島のカキ小屋のシーズンは10月から4月にかけて。船越漁港には今冬、8軒が並んだ。「豊漁丸」では週末、総勢25人が働く。年末は29日まで開店、年初の仕事も3日に始まる忙しさだ。

   ◇   ◇

 船越漁港の主力は、2隻の船で天然マダイなどを捕る「二双吾智(ごち)網」と「一双吾智網」。漁期は5~12月で、冬場は休漁になるため、漁師は別の漁に従事するが季節柄、シケで出漁できない日も多く、収入は安定しない。かつては陸に上がり、土木工事などに出掛ける人も少なくなかった。

 糸島のカキ養殖は1988年ごろ、そんな漁師の冬場の仕事の一つとして始まった。2002年ごろから直売所でのカキ販売やカキ小屋がぽつぽつと登場。漁師らも「カキ漁業養殖部会」を結成し、「糸島産のカキのみを取り扱う」「価格の統一」などを申し合わせた上でPRに努めた。

 今では糸島漁協所属のカキ小屋だけでも岐志、船越、福吉、加布里(かふり)の4漁港に27軒。カキ養殖は糸島全体の水揚げ額の約2割を占めるまでに成長した。昨季の来場者数は約39万人と冬の糸島観光の柱にもなり、カキ小屋を訪れた客の滞在時間を増やそうと市は昨秋、古代伊都国につながる市内の史跡巡りや調理・収穫体験、クラフト、ウオーキングなど、糸島ならでは楽しみと組み合わせた体験プログラム「糸島遊び」を始めた。

 カキ小屋から出るカキ殻も海と陸をつなぐ宝に変えた。JA糸島や市と協力し、有機石灰として畑で再利用しながら、ごみ処理経費を節減する仕組みをつくったのだ。

 資源の減少、魚価の低迷、後継者不足。漁業を取り巻く環境は依然として厳しい。ただ海のもたらす恵みに工夫を加えれば、漁業も地域もさらに潤う余地があることを、糸島のカキ小屋は証明する。

 船越漁港では今年から3カ年で、5隻の新造船ができる。「組合員の気持ちが上向いてきた証しでしょう」。糸島漁協船越支所の鹿毛俊作支所長(43)は言う。

 第6回「育 鍛えてもらったから」

=2017/01/07付 西日本新聞朝刊=

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