目指すは鹿島産米100% 醸し人物語(10)

西日本新聞

 多良山系の伏流水が流れ込む佐賀県鹿島市三河内の水田で酒米「山田錦」を育てて20年。農業、木下英春さん(61)は「毎年、祈るような気持ちです」と話す。うるち米に比べ背が高く幹は細い。病気にもなりやすいデリケートな稲。今なお試行錯誤の繰り返しだ。

 2012年は病気で粒が育たず、収穫全体の3割ほどしか納品できなかった。台風が直撃した年は刈り取り前の稲が倒れてしまった。

 「とにかく異変がないかと心配で心配で。特に倒伏が怖いんです」。山田錦の国内最大産地・兵庫県の農家に出向いて栽培技術を教わり、倒伏防止用の網を張ったり、稲が“共倒れ”しないよう植える間隔を広げたりと、対応策はどんどん取り入れた。

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 鹿島市内で酒米作りが広まったのは1985年ごろ。「農業県の佐賀だからできる酒を」と、地元産米での酒造りを目指した馬場酒造場や矢野酒造など市内の蔵が農協に相談、酒米を栽培する農家を探したことから始まった。

 農家の長男として育ち、21歳の頃からハウスミカンやうるち米を栽培していた木下さんにも先輩農家から声が掛かった。自分の田んぼがあるのはかつての「能古見村」。その名を冠した銘酒を醸す馬場酒造場も近い。しかし周囲で酒米農家は1軒だけだった。

 「能古見の蔵がある地区が、それじゃさびしい」。腹をくくった。10アールから始めた山田錦は現在、40アール。収量は約10トンまでになった。

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 昨年3月。蔵元や米農家がJAさが鹿島支所の一室に集まり、その年の酒米の出来を振り返った。「生産量がもう少しあればなあ」。蔵元のつぶやきが胸にこたえた。酒米農家は市内で16軒になったが、決して多いとは言えない。

 「農家が一丸となって、いい酒米を作らなければ」。5月に「鹿島酒米を活(い)かす協議会」を立ち上げ、会長に就いた。栽培技法の研究、稲の品種改良で安定した作付けを目指し、新たな担い手の獲得のための策も練る。

 「日本酒に注目が集まり、鹿島もにぎわいをみせている。周りが頑張っているのだから米作りも成果を上げていきたい」。鹿島産米100%の酒が醸される日のために、今年も奔走する。

 ◆目標にしたい「一献」 地元産「雄町」を使った特別純米酒「燦然(さんぜん)」(菊池酒造、岡山県倉敷市)は米本来の甘みが広がる名酒です。岡山県内でも100%県産米を使った日本酒を造る蔵は3軒だけだそうです。私たちが目指すのはまさにこの酒だと気合が入りました。

 第11回「酒と町との『化学反応』」

=2017/01/15付 西日本新聞朝刊(佐賀)=

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