酒と町との「化学反応」 醸し人物語(11)

西日本新聞

 観光客で満席になった循環バス。酒蔵には、新酒の試飲を待ちわびるファンが列をなす-。「このまちに、こんなに観光客が来るなんて、夢にも思っていませんでした」。佐賀県鹿島市観光協会代表理事で鹿島酒蔵ツーリズム推進協議会事務局の中村雄一郎さん(67)は、しみじみと振り返る。

 鹿島市内の六つの蔵元が同時に蔵開きをする毎年3月の鹿島酒蔵ツーリズム。2012年の第1回が約3万人、5回目を数えた昨年は2日間で約7万5千人と、年々にぎわいを増す。

 主会場の肥前浜宿は地域住民が約30年にわたり町並み保存に努めてきた場所。06年には国の重要伝統的建造物群保存地区に指定された。そんな積み重ねがあったからこそ「千載一遇の好機」が生きた。

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 「鍋島の受賞を一蔵元の名誉にとどめるのか、地域全体で分かち合うのか。どちらにするのですか」

 11年、インターナショナル・ワイン・チャレンジ(IWC)で富久千代酒造(鹿島市浜町)の「鍋島」がチャンピオン・サケを獲得した直後のこと。中村さんの背を押したのはIWCの日本酒部門創設に尽力した当の本人、平出淑恵さん(54)の叱咤(しった)激励だった。平出さんは国際線の元客室乗務員。海外のワイン専門家、醸造家との交流を通して「ワインの世界が実現していることは日本酒でもできる」と確信し活動する人だった。

 例えば「ワインツーリズム」。世界チャンピオンになったワイン産地には全世界から人が押し寄せる。その概念をいち早く取り入れたのが鹿島の酒蔵ツーリズムだった。

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 日本酒を通じて、地域の歴史文化、水と土壌、発酵技術を楽しむ。「地域連携型のモデルになった」と平出さん。13年から鹿島市の中心市街地の飲食店で始まった「はしご酒」イベントには「東一」で知られる五町田酒造など嬉野市の3蔵元も参加。15年のツーリズムから、この3蔵が「嬉野温泉酒蔵まつり」を同時開催、規模を広げている。

 「佐賀の日本酒に境はない。県内全域の酒蔵が協力して2、3月の蔵開きを連動させて『佐賀酒蔵ツーリズム』に発展させたい」。中村さんは将来像をこう語る。酒と町との“化学反応”は、さらなる熟成への可能性を秘める。

 ◆思わずうなった「一献」 20年余り前、鹿島市内の飲食店で出合った「久保田」(朝日酒造、新潟県長岡市)の特別本醸造「百寿」。水のようにさらさらと飲みやすい。淡麗辛口で佐賀の酒とは対照的な味ですが、私は「うまいっ」と、思わずうなりました。

 第12回「郷土で錦を飾るため」

=2017/01/16付 西日本新聞朝刊(佐賀)=

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