今天中国~中国のいま(1) 北京の一角、ゲイの聖地

西日本新聞

 北京の歓楽街の一角に、その店はあった。ビルが立つ敷地の門扉は閉じられており、警備員にかばんの中身を見せ、窓口で80元(1300円程度)を支払う。

 店内に入って驚いた。大音量で音楽が鳴り響く中、お立ち台で踊るのは下着姿の男性たち。ステージでは裸に近い男たちのショーが繰り広げられ、あちこちで男性同士が酒を飲みながら、抱擁している。そう、ここは知る人ぞ知るゲイ(同性愛者)の「聖地」と呼ばれる場所なのだ。

 共産党体制下の中国は、人権抑圧のイメージが強い。ゲイなど性的少数者(LGBT)への偏見も根強く、十数年前までは精神疾患とみなされていた。そんな中国の、しかも治安管理の厳しい首都のど真ん中に、こうした店があるとは-。

 「報道されないけど、中国にゲイは多いと思うよ。見てよ、これ」。店で知り合った張さん(19)=仮名=はスマートフォンを取り出した。ゲイ専用の交流アプリがあり、登録ユーザー数は2千万人を超えるという。「僕にもフォロワーが1800人もいるんだよ」

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 LGBTの居場所、“黙認”

 中国では建国を担った共産党員同士、「同志」と呼び合う習わしがある。最近は「同志」にもう一つ、意味が加わった。性的少数者(LGBT)である。

 同志たち、主にゲイが集まる中国有数の店は「目的地(destination)」。北京でオープンして今年12周年を迎えた。4階建てだろうか、ビル1棟が丸ごと店である。記者が訪ねた日は真夜中も数百人の客でにぎわっていた。大半は男性客だが、女性同士、男女のカップルもいた。リラックスした表情が印象に残る。エイズウイルス(HIV)検査などが受けられる設備もあるという。

 中国の有名インターネット動画サイトに、同店オーナーである男性2人のインタビューがあった。1990年代半ばからカップルとして生活しているという。

 その一人、香港出身の男性は語る。「私たちにとって『目的地』は子どもです。ゆっくり大きく成長している。同志たちが来たら、自分が属する場所だと思ってもらえるようにしたい」

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 毛沢東が主導して1966年に始まった政治運動、文化大革命以来、中国では同性愛行為は違法行為とされた。97年の刑法改正で犯罪ではなくなり、2001年に精神疾患に分類されなくなったが、当局にLGBTの権利向上を図る姿勢は見られない。中高年齢層を中心に偏見も根強い。

 湖南省長沙市の裁判所は今年4月、婚姻届の不受理は違法として提訴した男性カップルの訴えを退ける判決を言い渡した。「伝統と文化的、思想的な進歩に逆行する」として、行政が同性愛者の団体結成を認めなかったケースもある。同性愛を描いたドラマなどはご法度だ。習近平指導部は、基本的人権の尊重など欧米流の価値観が国内に流入することを警戒している。

 そんな中、当局の立ち入り検査を受けつつ「目的地」が営業を認められてきたのは不思議だ。不満を抑える社会政策として黙認しているのか。「有力者が背後にいるのでは」(中国メディア関係者)との臆測もあるが、よく分からない。

 少なくとも、人々の意識は変化しつつある。昨年春、有名な研究者の女性が同性愛を公言し、相手と一緒に一般雑誌の表紙に取り上げられた。人権抑圧のイメージとは裏腹に、意外な多様性がほの見える。

 北京の会社員男性(27)は言う。「ネットの普及もあり、若い世代には偏見が少ない。僕の友人にはゲイもレズビアンもいますよ」

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 「目的地」で出会った張さん(19)=仮名=は河南省出身。小学生の頃から違和感があり、思春期になって女性と交際しても長続きしなかった。3年ほど前、自分はゲイだと確信。ゲイ専用の交流アプリを通じ、50人ほどの男性と知り合った。今は真剣な交際相手はいない。「男なら誰でもいいと誤解されているけど、違うんですよ」

 彼の一般的な交流アプリには、両親と一緒に撮った写真が掲載されていた。両親にはゲイと打ち明けていない。「中国社会は欧米に比べ、オープンじゃないから」。ゲイの知人の多くは女性と結婚している。

 「僕も一人っ子。将来は結婚しなくちゃいけないんだろうなあ」。張さんは一瞬、寂しげな表情を浮かべた。

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 大気汚染、爆買い、共産党支配…。そんなキーワードが思い浮かぶ中国だが、素顔は実に多様だ。急速な経済成長に伴い生活環境が激変する中、人々はたくましく生きている。隣国の「今天(いま)」を紹介する。 (北京・相本康一)

 =随時掲載

=2016/12/25付 西日本新聞朝刊=

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