【日日是好日】ありがとう。莉奈ちゃん 羅漢寺次期住職 太田英華

西日本新聞

 久しぶりの大雨で潤った空気。花粉が洗い流されたのか、くしゃみもちょっと落ち着きました。雨上がりの早朝は靄(もや)が立ち込め、気温の上昇とともに水蒸気となり、山間から空に向かって白い煙が黙々と登っていく。この情景を見た参拝者が「ここは温泉があるのですか?」と。表情の違う一日の始まり。今日はどんな顔?と朝が楽しみです。

 日に日に膨らんできた白い木蓮(もくれん)の花。随分昔に末寺の奥さんが山の下の車庫横に植えてくれた木蓮は、高さ約20メートル。上から見てそちらに手を伸ばすと、ちょうどかわいい花束に。真っ赤な八重の椿(つばき)。庭師のタケちゃんが手入れをしてくれたので、今年は見事な大輪の花がたくさん。散っても地面が華やか。桜のつぼみもふっくらとしてきました。今年の桜はどんな春を演出してくれるかな。

 3月は卒業式。地元上津小学校の今年の卒業生は1人。莉奈ちゃん。彼女との出会いは、先生と2人きりの社会見学で羅漢寺へ来た3年前。地域の人が莉奈ちゃんの社会見学に協力していることを「あなたは恵まれていますね。たくさんの人があなたを待ってくれているから」と言うと。ちょっと「えっ」という顔をし、「はい」と返事。数日後、彼女は社会見学のお礼と感想文をくれました。

 昨年の私1人のための特別文化祭でのこと。舞台上で司会をし、またみんなと一緒に太鼓をたたき、上級生としてしっかり下級生を引っ張っていくお姉さんになった莉奈ちゃんに感動。「莉奈ちゃん。しっかりしたね」と言うと。「はい」と自信に満ちた返事が。

 今年になって中津市の市報で「せんだん」という上津小学校の新聞に莉奈ちゃんの記事を見つけました。内容は莉奈ちゃんのランドセルのこと。彼女のランドセルはお下がりで、肩の部分が何度も修理されている。ある日、ランドセルを抱えて登校する莉奈ちゃんに先生が「ここまで使っているからもう手提げカバンで登校したら?」と言うと、「お父さんが修理してくれたから最後まで使う」と。先生はこんなにものを大事にする子は初めてだと感動し、そのランドセルを使いやすいように修理してあげたとのこと。

 私は3年前、彼女の「はい」を思い出し、うれしくなりました。たった1人の授業や社会見学。彼女の境遇を当たり前と思わず、きちんと感謝の気持ちを持ち、それに答えている。

 「ありがとう。莉奈ちゃん」。小学3年生の莉奈ちゃんの社会見学感想文は、当時の莉奈ちゃんの写真とともに羅漢寺の本堂受付に貼っています。ご本人が「剥がしてください」と言うまで。

 春になり生き物全てが活動的に、人間も同様。毎日の出来事や出会いが一気に盛りだくさん。あらためて「皆様。ありがとうございます。これからもよろしくお願いいたします」。合掌。

 【略歴】1967年、羅漢寺27代住職の娘として生まれる。高校卒業後、大学進学のため上京。20代半ばから40歳で出家するまでフラメンコダンサーとして活動。出家後、愛知県の尼僧専門修行道場で約5年間、僧堂修行し、2013年3月に帰山。現在羅漢寺28代次期住職として寺を守る。


=2017/03/26付 西日本新聞朝刊=

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