【火種抱える森友学園問題】 姜 尚中さん

西日本新聞

◆政局変動はらむ日米韓

 大阪市の学校法人「森友学園」問題をめぐる疑惑は深まるばかりだ。学園の籠池(かごいけ)泰典氏の証人喚問で、火の粉は振り払われると思った政府、与党にとって、籠池氏の独壇場のような発言は誤算だったに違いない。矢面に立たされた安倍晋三首相の昭恵夫人と学園との尋常ではない深い関係を示唆する証言に狼狽(うろた)えたのか、発言の信ぴょう性を突き崩すことに躍起だ。

 政府は、昭恵夫人のメールや昭恵夫人付きの政府職員のファクスなどを公開し、火消しを図ろうとしているが、逆にそれが火に油を注ぎかねない結果になっている。特に、内閣総理大臣夫人付きの肩書を持つ職員が、籠池氏に送ったファクスには、国有地契約に絡んで職員による財務省への問い合わせと、それに対する回答、さらに籠池氏への協力が示唆されており、昭恵夫人と籠池氏の深い接点が浮き彫りにされている。ファクスは職員個人の私信にすぎないと主張しているが、内閣総理大臣夫人付きの肩書を持つ職員が、個人的な一存で一学園の請託を財務省に取り継ぐものなのかどうか。

 国会での籠池氏の発言には首をかしげざるをえない点がある。しかし、偽証罪に問われる可能性のある発言と、証人喚問の埒外(らちがい)に置かれたメールやファクスの公開とを同列に置くことはできない。

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 この問題は当初、ボヤにもならないほどの小さな火種として扱われていた。しかし、それがボヤから安倍政権そのものを炎上させかねない勢いとなったのは、鴻池祥肇(こうのいけよしただ)元防災担当相の「爆弾発言」がきっかけだった。この発言で、国有地の払い下げに政治家への働きかけがあったのではないかという疑惑が一挙に広がったのである。麻生太郎副総理と盟友関係にある鴻池氏が疑惑を蒸し返すような発言をなぜしたのか、今もってその真意は明らかではない。

 払い下げに政治家の介入や財務省担当者の忖度(そんたく)があったのか。特異としか言いようのない教育理念と方針を掲げる小学校の設置について、大阪府の私学審議会が相次ぐ委員の懸念をよそに「認可適当」の判断を下したのはなぜか。疑念は残ったままだ。さらに国有地の売却交渉に関わる公文書が早々と廃棄されたのはどうしてか。小学校設置の認可申請は適切に審議されたのか。こうした点も解明が急がれる。

 現状では、安倍政権の支持率にさほどの影響は与えていないようだ。火の粉が政権に及ばない前に、籠池氏の偽証罪による告発で一件落着の可能性もないわけではない。

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 歴史を遡(さかのぼ)れば、薩摩閥の北海道開拓使長官、黒田清隆による同郷の政商、五代友厚への破格での官有物払い下げに端を発する明治十四年の政変が示しているように、国有地や官有物をめぐる不透明な払い下げ問題が、政治スキャンダルに発展し、政局の大きな変動をもたらすことも稀(まれ)ではない。

 もしそうなれば、事態の深刻さに違いはあれ、日本もまた、韓国と同じように、大きな政治変動に見舞われるかもしれない。さらに、連邦捜査局(FBI)がトランプ政権とロシアとのコネクションを捜査中と異例の発表に及んだ米国でも、その捜査結果次第では、ニクソン政権下のウォーターゲート事件を上回るような政治スキャンダルにならないとも限らない。

 北朝鮮の脅威や中国の海洋進出が東アジアの安全保障を揺るがすなか、日米韓3カ国の連携と積極的な外交力の結束が必要とされているにもかかわらず、この3カ国がそれぞれの国内事情で不安定になり、政局の変動を迎えようとしていることは皮肉としか言いようがない。

 【略歴】1950年、熊本市生まれ。早稲田大大学院博士課程修了後、ドイツ留学。国際基督教大准教授、東大大学院情報学環教授、聖学院大学長などを歴任。専攻は政治学、政治思想史。著書に「漱石のことば」など。


=2017/04/02付 西日本新聞朝刊=

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