「死」から見える現代日本の格差・・・法医解剖医によるノンフィクション

西日本新聞

 本書は、現役の法医解剖医によるノンフィクション。ドラマなどでは殺人事件の死因特定を行っている法医学者だが、それは仕事の一部に過ぎない。死因不明で法医学教室に運ばれてくる遺体は、実にさまざまである。交通事故、自殺、アルコール中毒死、孤独死、凍死、溺死……。いずれにしても、ほとんどが「普通でない」状況で亡くなった人たちだ。そして、そこから見えてくるのは、現代社会の「格差」なのである。

 事例は冒頭から壮絶だ。数年前、40代女性が自宅の市営団地で死亡した。発見したのは同居している母親で、帰宅したとき女性はすでに冷たくなっていたという。室内はすべて施錠されており、第三者が侵入した痕跡はなし。警察は「事件性はない」と判断したものの、死因究明のため、著者が勤める大学病院に解剖を依頼した。

 著者は解剖に着手。遺体の頭部、肩、腰に打撲痕があり、体内で大量の出血を起こしていた。解剖の結果、著者は「骨盤骨折による出血性ショック」と死因を特定した。だが、なぜ女性は自宅でこのような状況に陥ってしまったのか。

 著者が導き出した答えは「交通事故」だった。事実、警察が調べたところ、女性はたしかに交通事故に遭っていた。事故を起こした運転者は、きちんと警察に届出を出し、女性を病院に連れていこうとしたが、彼女自身がそれを拒否。そのかわりに「自宅まで送ってほしい」と頼んだという。彼女はなんとか帰宅したものの、体内で出血が続き、ついに絶命してしまった。これが真相である。だが、なぜ彼女は病院に行くことを拒んだのか。実は、彼女は重度の酒好きだっただめ、ひとりで酒を飲むことを母親からきつく禁じられていた。そのため、病院に運ばれることで、酒を買いに行ったことがバレてしまうことを恐れたのだ。この事故の数年前、彼女はアルコール依存が原因で離婚していた。酒で二度にわたり人生を壊されてしまった女性。なんとも心痛む話である。

 著者が解剖してきた遺体の「身元」を分類すると、約50%が独居者、約30%が精神疾患、約20%が生活保護受給者、約10%が自殺者だという。食べ物も暖房もなく、凍死してしまった人までいる。彼らはいわゆる「社会的弱者」だが、現在の日本では、病気、リストラ、離婚など、ちょっとした状況の変化でつまずいてしまう危険性は誰にでもある。さまざまな「死」から現代社会を、そして「生」について考えさせられる一冊だ。


出版社:双葉社
書名:死体格差 解剖台の上の「声なき声」より
著者名:西尾元
定価(税込):1,512円
税別価格:1,400円
リンク先:http://www.futabasha.co.jp/booksdb/book/bookview/978-4-575-31228-7.html?c=30598&o=date&type=t&word=%E6%AD%BB%E4%BD%93%E6%A0%BC%E5%B7%AE


西日本新聞 読書案内編集部

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