【新しい場所で咲こう】 関根 千佳さん

西日本新聞

◆多様な社会 目を向けて

 4月。入学式や入社式で全く新しい環境に入った人も、進級や異動で次のステージへ移った人もいるだろう。まずは、おめでとう。がんばってね、とエールを送りたい。

 新しい環境に慣れるのは最初は大変かもしれない。私は大学でも職場でも、最初はとんでもない劣等生で、周囲に迷惑ばかりかけていた。だが周りの人に助けてもらいながら、マイナスも掛け合わせればプラスにできると信じ、続けてきた。石の上にも三年という言葉は正しいのだ。

 春が来て、今を盛りと花が咲く。考えてみれば、その咲く花たちのひとつひとつは、新しい世界で、生まれて初めて、花として開いているのである。

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 晴れて進学した皆さんは、期待でいっぱいだろう。これまで受験勉強で大変だったんだから、さあ、遊んでやるぞ、と意気込んでいるかもしれない。よく学び、よく遊ぶのはすてきなことだ。それも人生を豊かにする。でも同時に、そこに来たくても来れなかった人のことも、忘れないでほしい。1点差に泣いた人も、さまざまな事情で進学を諦めた人も、そして世界の中には、学びたくても許されない人さえ存在するのだから。

 ここで学べるということがどれほどの幸福の上に成り立っているのか、ときどきでいいから思い出してほしい。

 学校での学びは、役に立つのかすぐにはわからないものもあるだろう。だがそれは、いつかどこかで、人生を深いものにするかもしれない。学生時代にもう少しちゃんと学んでおけばよかったと、後悔する社会人も多い。入社数年目の社員に話を聞くと、もっと早いうちに多様な人に出会っておくべきだったと言う。

 時間がある学生のうちに、できるだけ、多様な人に会おう。故郷と違う場所にも、できれば海外にも行こう。そして環境や、年齢や、立場の異なる多くの人に会って、その生き方を学んでほしい。たくさんの本や、新聞を読むことも大事だ。その中で、広く「社会」を学ぶ。知識と共に、生きるための知恵を身につける。それが、あなたの未来を拓(ひら)く日がくるはずだ。

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 新社会人になった皆さんも期待と不安でいっぱいかもしれない。自分にどんな仕事ができるのか、上司や先輩とはうまくやっていけるのか、いろいろ考えるだろう。学生時代と違って、仕事も環境も好きなことだけでは済まない。それが社会というもの、仕事というものだ。

 だが覚えていてほしい。仕事を何十年も続けられるのは、それが「楽しい」からなのである。できるかな、と思いながら挑戦し、本当にできたときの達成感。お客様にありがとう、と言われたときの嬉(うれ)しさ。それが、仕事を続ける原動力になる。

 学校は「お金を払って学ぶ場」だった。でも社会は違う。「お金をもらって学ばせてもらう場」だと思えばいい。もちろん、つらいこともあるだろう。だが、あなたの仕事が、少しでも誰かを幸せにするために役立つなら、それは続ける価値がある。

 仕事とは「志事(しごと)」である。何かを志し、それを為(な)すためにある。そして働くとは「傍楽(はたらく)」ことなのだ。誰かを少しでも楽に、幸せにすること、そして楽しくすることが、働くことの妙味だ。

 どんな職業でも、あなたが単なる労働者ではなく、プロフェッショナルとして志を持って働くなら、仕事はがぜん、面白くなるのである。

 冬があるから、春が来る。晴れの日も、嵐の日もある。どうか、あなたという樹が、それらを全て受け止めて、その場所で、新たな花を咲かせることができますように。

 【略歴】1957年長崎県佐世保市生まれ。九州大法学部卒。81年、日本IBMに入社後、ユニバーサルデザインの重要性を感じ、98年にユーディットを設立。同社社長、同志社大教授などを歴任。著書に「スローなユビキタスライフ」など。


=2017/04/09付 西日本新聞朝刊=

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