【医師の働き方改革】 丸山 泉さん

西日本新聞

◆身近な医療に専門性を

 医療のあり方や医療者の働き方を議論してきた有識者による「新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会」(座長・渋谷健司東京大教授)は6日、塩崎恭久厚生労働相に報告書を手渡した。15回に及ぶ検討をまとめたものである。

 病院勤務医や看護師の疲弊は、以前から大きな課題になっていた。もちろん、救急患者を頻回に受け入れる病院と、療養型病床や診療所では様相が異なるが、医療界全体が労務上のストレスにさらされている。日本の医療は在宅重視に大きくかじを切っており、これからは在宅医療を担う診療所の医師や看護師の働き方が課題になるだろう。

 加えて心配するのは、在宅ケアに関わる家族や介護職の疲弊である。医療・介護の基盤部分であり、先行して取り組む必要がある。ここが解決しなければ、在宅医療のシステムそのものが崩壊する恐れがある。地盤の弱いところに、十分な基礎工事をしないで立派な家を建てるのと同じである。

 報告書は、住民からというより、医療者側からの改革との色が強いが、読み込めば、これからの日本の医療のあり方を医師と看護師の働き方という視点からダイナミックに提言していることが分かる。

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 前提として二つの事実を示す。経済協力開発機構(OECD)の2015年の統計によると、日本の国内総生産(GDP)比の保健医療支出の推計値は、除外していた長期療養や介護を他国と同様に算定したことにより、世界3位となった。

 算定方法には異論もあるが「日本の医療は低いコストで上質である」と単純には言えないのである。「わが国の医療は、高齢化の度合いに比べて比較的低い国民負担で公平性を担保しながら…」などのように表現すべきだろう。開発途上にある国は、日本の医療制度がこのまま持続できるか冷静に注視している。

 もう一つの事実は、労働時間のルールを医師も遵守(じゅんしゅ)すべきであるという強い意見が出てきたことだ。この問題はそう簡単ではない。主治医としての責任とともに、医師法は「診療に従事する医師は、診察治療の求めがあった場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない」と定めている。「応召義務」といわれるものだ。

 政府の働き方改革実現会議の実行計画によると、労働基準法などの改正によって時間外労働に罰則付きの上限規制が設けられることになる。医師については改正法施行後5年間猶予されるが、具体的解決を図らねばならない。

 前提に上げた二つの事実は密接に関係している。医療職の労働の現状を改善しようとすると、間違いなく医療費に跳ね返るのである。

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 医師と看護師の働き方改革が、医療全般に及ぼす影響がお分かりになるだろう。報告書は、医師や看護師の仕事の一部を他職種に委譲する「タスク・シフティング」、一つの仕事を複数の人で分担する「タスク・シェアリング」などの必要性を指摘している。

 プライマリ・ケアの強化も強く提言している。住民に最も身近な医療の力量を上げることで、高度医療への過度な患者の流れを食い止めて負荷を軽減し、そのことで高度医療にさらに磨きをかけるという考え方である。

 残念ながら、日本はプライマリ・ケアの専門性を確立してこなかった。医学部に専門の講座は甚だ少ない。高度医療から見下ろしてつくってきた医療構造を、基礎工事からやり直すというパラダイムシフト(価値観の転換)となる。厚労省のホームページに公開されているので、一読をお勧めする。

 【略歴】1949年、福岡県久留米市生まれ。久留米大医学部卒の内科医。福岡県小郡市で医師会活動の後、NPO法人で地域の健康増進活動に取り組む。2012年6月から日本プライマリ・ケア連合学会理事長。父は医師で詩人の丸山豊。


=2017/04/16付 西日本新聞朝刊=

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