【働きやすさと働きがい】 松田 美幸さん

西日本新聞

◆適正な仕事全ての人に

 今年の新社会人は、全国で推定約89万人と報道された。一斉に入社式が行われる光景は日本特有だ。新卒一括採用のしくみは、企業にとっては採用コストと教育コストを抑えるという利点があり、社会にとっても若年者の失業率を抑える機能を果たしてきたと言えよう。欧州連合(EU)圏では若年層の失業率は20%台で全世代の2倍以上だが、日本では、大卒の求人倍率が史上最低だった2000年でさえも就職率は91・1%あった。ただし、就職できればいいというものではない。近年の統計では、新卒の3分の1が卒業後3年以内に辞めている。今年の新社会人に当てはめれば約30万人だ。

 新卒市場が存在する一方で、中途採用の機会は限定され、卒業年度の運不運がつきまとう。最初の職場で正社員になれないと、その先はさらに厳しい。厚生労働省の13年若年者雇用実態調査によれば、卒後1年以内の雇用状況で正社員以外の比率は、院修了・大卒で2割弱、短大卒で2・5割、高卒は3割を占める。このうち、大卒で言えば3人に2人は「正社員を希望していた」といういわゆる不本意型非正規である。

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 国際社会のキーワードのひとつに「ディーセント・ワーク」という言葉がある。日本ではほとんど浸透していない。ディーセントとは「適正な」とか「まともな」という意味。仕事は人間の尊厳と健康を損なうものでなく、人間らしい生活を持続的に営めることをめざす考え方だ。全ての人が働きがいのある仕事につき、十分な収入があり、老後の生活に必要な年金などがもらえるような労働条件を実現するという、一見、あたり前だが難しい目標である。

 国際労働機関(ILO)は、このディーセント・ワークを活動の主目標と位置づけ、具体的に条約・勧告として定め、推進している。日本でも12年の日本再生戦略に盛り込まれてはいるが、労働時間の上限規制の問題や雇用形態による格差など、国際的な条約を批准していないものも多く、最低賃金も先進国の中では低いのが実情だ。

 優れた教育を受け、長時間働いても、賃金は低く、不安定な雇用形態の若者が多い国に未来はあるのか。前述の若年者の調査で、職業生活で最も満足度が低いのが「賃金」で「教育訓練や能力開発のあり方」が続く。雇用する側が、働きやすさと働きがいを高めるための変革が必要であることを示している。

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 日本の企業は、若者だけでなく女性が辞める理由にもきちんと向き合ってこなかったのではないかと感じる。米国シンクタンクが、日本の女性の退職が諸外国より多い理由について調査を行った。米国と比べると、育児や介護という外的要因より「仕事の内容に満足できない」とか「キャリアの見通しが立たない」といった内的要因で辞める女性が多い、という結果が注目された。当事者の女性たちにしてみれば、企業がそこに気づかなかったことこそが、問題だと感じたに違いない。

 女性の大活躍推進福岡県会議では、最近、県内の企業や自治体を対象に女性の活躍への取り組み状況を調査した。積極的に取り組んでいるところからの回答が中心と考えられるが、両立支援など働きやすさの施策は充実という割合は65・1%。男女共に能力を生かす働きがいの施策も充実というのは24・4%で、今後取り組みたいとしている事業主は多い。課題は、働きがいの施策のノウハウ不足であり、多様な人材のやる気を引き出す管理力不足である。新卒一括採用で比較的均質な人材に恵まれ、管理職の人材開発力を磨いてこなかったツケを取り戻す時が来ている。

 【略歴】1958年、津市生まれ。三重大教育学部卒、米イリノイ大経営学修士(MBA)。2015年6月から現職。福岡女子大学学長特別補佐、福岡地域戦略推進協議会シニアフェロー、OCHIホールディングス(株)社外取締役も務める。


=2017/04/23付 西日本新聞朝刊=

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