「人は必ず飽きる。それが次のエネルギー」松任谷正隆インタビュー完全版(下)40年ぶり自身のアルバム制作中

西日本スポーツ

 -例えば野球では自分のホームランを全部覚えている人がいます。過去を覚えているという意味では正反対ですが、音楽においては忘れることが大事なのでしょうか。

 「僕らは投げてくるピッチャーが違うだけではなく使う球も違う。下手をしたらルールも違うかもしれないから、覚えていても仕方ない。そこはスポーツの世界との決定的な違いかもしれませんね。僕はよくゴルフをやりますが、人の第2打、第3打を覚えている人もいる。僕なんていつも自分が打つことで精いっぱい。でも、音楽は過去を覚えていると邪魔になるんですよ。新しいものを作ろうとしているから。あの曲のここがよかったなんてのは忘れなきゃいけないし、忘れてよかったと思います」

 -CDが売れないように、活字メディアも苦境にあります。今の話はヒントになるような気がしますが、アドバイスをいただけるとしたら。

 「僕は紙が好き。紙とキンドル(電子書籍端末)、どこが違うんだろうと思って両方で買ったりするんだけど、キンドルだと“ペラペラ”っていうのがないじゃないですか。ペラペラってやりながら、途中であれっ?て立ち止まる。そういうのは、キンドルではできないですよね」

 -そういう意味で紙の良さはありますか。

 「あります、絶対。実は経過が絶対的に大事だったりする。目的に達するまでの経過。音楽でもそうだけど、今はすぐに目的をポンって呼び出せてしまうでしょう」 -昔のカセットテープもそうでした。

 「ありましよね。このあたりがサビだったかなって。でも今はヒュッて呼び出せる。それは紙も一緒ですよね」

 -紙は廃れない?

 「廃れはしない。アナログレコードと一緒ですよ。電子はいくらでもデータが残せる。むしろ紙はどんどん残って処理が大変なんだけど、やっぱり読みたいのは電子ではなく紙だと思うんです。絵みたいな感覚。そんな感じがする。何だろうなあ。重さの違いかな」

 -根本はどのジャンルでも同じでしょうか。

 「他のジャンルを見るといろんなものが参考になると思いますね、例えばファミレス。みんなファミレスで食べるようになったって言われるじゃないですか。でもしち面倒くさい懐石料理だったり、コースだったり、ものすごく凝ったプロセスを経たものだったり、そういうものも受け入れられたりしているとも感じる。他方ではコンビニ弁当でよかったりする人もいるけれど、だから均衡がとれている感じはします。古くてもニーズはなくならない。きっと音楽もそうだと思う。音楽自体がそう。コンビニみたいな音楽もあるし、そうでない音楽もある」

 -音楽不況でも聞く人が減ったわけではない?

 「だと思いますね。人は必ず飽きるじゃないですか。自分もそうで、それが次のものづくりのエネルギーになる。今やっていることに飽きるから新しいものを求める。ファッションもそう。全てがそうだと思う。同じことをやっていてはだめなんですよ」

  -さて最新プロデュース作、由実さんの「宇宙図書館」のツアーですが、見どころを教えていただけますか。

 「それが、去年11月のツアーのスタートまでに作りあげちゃって、そのときの温度感を覚えていないんですよ、CDも11月までに作り終えているので、どんな感じですかって言われても覚えてない(笑)」

 -いつもそんな感じなんですか。

 「そうですね。合間には(2月の)苗場のショーもやったし、別のイベントみたいなこともやったし、そっちに全部頭を切り替えたので…覚えてることは話せるんですけど(笑)」

 -覚えている範囲で構いません(笑)。「宇宙図書館」のアルバムは2015年公開の映画「リトルプリンス 星の王子さまと私」の日本語吹替版主題歌「気づかず過ぎた初恋」がスタートとのことですが。

 「星の王子さまからスタートして、もう少しリアルな曲なんかを入れていって、図書館っていうキーワードに行き着いたんです。でも、最初にタイトルありきではなかったんですよ。途中まで作ってみて、これはこういうアルバムだなという感触が分かってきてタイトルが浮かんだ。コンサートもその流れです。コンサートの場合はシーンの転換や衣装替えみたいなものがあって、そのコンビネーションで世界観をつくっていくわけだけど、それならそこに何かのコーナーを、ちょっとだけ多次元的なコーナーを四つくらいに分けて作った記憶がありますね」

 -音づくりとショーにおいて、作り方の違いはありますか。

 「たぶんこういう意味だろうと思って話しますけど、アルバムはワンゲームを戦う。ショーはその1年をどう組み立てるか、どう見せるかっていうことではないでしょうか。アルバムの曲たちをスタメンと考えるならそういう感じですよね」

 -楽しそうです。

 「そうですよ。アルバムって、できあがったら直しようがない。でも実を言うと感性は変わっていく。さっきも言ったみたいに、古いものはどんどん聴く気がしなくなるわけですよ。でもショーは、やってる間はどんどん直せますから」

 -ツアーで言えば一番最後のステージが一番いいものでありたい?

 「いいものかどうかは分からないけれど、少なくとも自分がやりたいものに近いものではありたいですね。直して、直して、直して…」

 -ツアーは全部行かないのですか。

 「行かないですね。ただ、ポイントでは行きます。そこでいろんなところを直します」

 -九州に足を運んだことは?

 「実はいま、(熊本県の)天草に凝っているんですよ。知り合いが天草出身で、『いいところだ』って言われて連れて行かれたところが本当によくて。食も。景色も。昔ね、天草エアラインの音楽もつくったんです。今は使われていないんですけど、そんなこともあって、親しみを感じていますね、天草には」

 -今回はインタビュー形式の本ですが、自分で書く考えはありますか。

 「実は今、自分で書いてるんですよ」

 -自伝を?

 「自伝ではなく…何ていうのかなあ、モノとその背景のストーリーみたいな。何かモノにこだわるようになったわけ。20個のモノ20個の理由みたいな。もう書き終わっているんですけどね」

 -書くのは好き

 「好きですね。乗ったときは文字数もいくらでも書けちゃいます」

 -今後の音楽活動の予定などは。

 「今度、自分名義のものを作ります。40年ぶりかな。確か1977年に1枚作っている(『夜の旅人』)けど、また作れと言われて、頑張ってみようと。自分がいよいよになったときに、こんなことをやっときゃよかったみたいに後悔するのが嫌だから、今できることをやりたいですね」

 -これまでもそういう話(アルバム)のオファーはあったのでは?

 「ええ。でも、何だかやる気にならなかったんですよ、40年間」

 -今がそのタイミングということですか?

 「なのかなあ。ただ自分のものっていうと、肩に力が入る。監督が自分で出て行ってホームラン打つぞみたいな。さすがにもうそこまでの色気というか、そういうものはないので、楽にヒットを打てればね」

 -リリースは決まっていないのですか。

 「そうです。少しずつ始めていますけど」

 -楽しみですね。

 「気長に待っていてください(笑)」

(聞き手・構成=山本泰明)

 ◆「僕の音楽キャリア全部話します」 1971年、加藤和彦に誘われ、吉田拓郎の「結婚しようよ」のキーボーディストとしてミュージシャンデビュー。以降、アレンジャー、プロデューサーとして多くの作品に携わった著者が、2016年の松任谷由実の38枚目のアルバム「宇宙図書館」まで、自身の道のりを振り返りながらさまざまな人との出会いや音楽観の全てを語る。(新潮社、1400円)

→松任谷正隆インタビュー完全版(上)「過去のものはいつも稚拙」

=2017/04/27 西日本スポーツ=

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