森へおいでよ 筑豊の自然再発見<32>リョウブ 食糧難を救った若葉

西日本新聞

 生まれたばかりの緑が、日ごと風景を明るく塗り替えていく。新緑は遠くから眺めるのも爽快であるが、できれば森へ行き、木々の新しい息吹を間近で感じてほしい。例えばリョウブ。4月の初めごろに現れる新芽は、光に透けて輝く淡い緑の花のよう=写真(1)。空へと差し出した子供の手のようにも見え、心が癒やされる=写真(2)。

 そんな愛らしい新芽をつけるリョウブだが、かつては「救荒(きゅうこう)植物」として大きな役割を果たしてきた。救荒植物とは、飢えをしのぐために利用される植物のこと。天候不順による不作や災害などによる食糧不足に備え、リョウブの若葉をゆでて乾燥させたものを蓄えていたという。

 平安時代に深刻な飢饉(ききん)が起きたという史実を背景に、名の由来にはこんな説がある。飢饉に備え、農民に田畑の面積に対して一定量のリョウブを植えることを命じた令法(官令)が出され、その「りょうぼう」という読み方がリョウブに転訛(てんか)したというものである。しかし、さまざまな検証のもと異説もあることを知っておきたい。その代表的なものが、「龍尾(りょうび)」が転訛したというもの。夏、少し反り返るように咲く白い花をりりしい龍の尾に見立てたのである=写真(3)。また、別名も多種あり、樹皮がなめらかであることから=写真(4)、「さるすべり」や「さるなめし」などと呼ぶ地方もあるらしい。名の由来説や呼び方にも多様な視点があることを知ると、植物観察はより面白くなる。

 食糧難を救うための植物は、身近にあり、毒がないことなどが重要。江戸時代に米沢藩主らがまとめた「かてもの」という飢饉救済の手引書には、リョウブを含む身近な草木約80種の特徴や詳細な調理法が記されている。先人たちが身の危険を冒して安全性を試した、いわば生き残るための植物ガイドであった。

 先日、リョウブの新芽を摘み=写真(5)、ご飯にまぜて味と香りを堪能した=写真(6)。食が豊かになった今に、先人の知恵は、季節を楽しむ心の豊かさをもたらしてくれている。

【筑豊の自然を楽しむ会(ちくぜんらく)・後藤ようこ(もり子)】


=2017/04/27付 西日本新聞朝刊(筑豊版)=

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