防災のヒント 熊本地震1年<5完>健康の管理 血栓予防と口腔ケア

西日本新聞

 自然災害の直接的な被害を乗り越えた命が、その後の避難生活による体調悪化などが原因で失われることもある。熊本地震では、25日時点で170人が「震災関連死」と認定された。物資不足や、不衛生な環境の厳しい避難生活を生き抜くために、特に注意が必要な二つの疾患の予防法について話を聞いた。

 ◆エコノミー症候群

 熊本地震では余震の頻発で車に寝泊まりする人が多かった。車中泊は呼吸困難などを引き起こす「エコノミークラス症候群」につながる恐れもある。被災地で予防法を指導した済生会福岡総合病院(福岡市)の臨床検査技師、手嶋敏裕さん(47)は「座ったまま手軽に取り組める予防法もあるので知っておいてほしい」と呼び掛ける。

 車内などの狭い場所で長時間、同じ姿勢を続けると、脚の静脈に血の塊(血栓)ができる。それが肺の血管を詰まらせ呼吸困難に陥り、死に至るケースもあるという。血栓はエコー検査などで見つけられ、薬で血栓を溶かす治療法もある。

 手嶋さんによると、予防には歩いたり、脚を動かす体操をしたりすることが効果的だそうだ。片脚ずつ両腕で抱える=写真(1)▽ふくらはぎのマッサージ▽足の指を開いたり(パー)閉じたり(グー)する-は座ったままできて、血流を促す効果が期待できる。締め付けが少ないゆったりとした服装を選ぶことも大事だという。

 「予防には水分補給も忘れずに」と手嶋さん。災害時は水が手に入りにくく、トイレも不衛生といった事情から、水分摂取を控えがち。水分を十分取らないと発症リスクが高まる。お年寄りや妊婦は特に注意が必要だ。

 ◆誤嚥性肺炎

 被災直後の生活は、水や歯ブラシの確保がままならず、口内を清潔に保つのが難しい。特に高齢者は細菌を多く含んだ唾液が気管に入って起こる誤嚥(ごえん)性肺炎の危険性が高まる。阪神大震災では関連死の死因の24%が肺炎で、多くは誤嚥性肺炎だったという分析もある。

 熊本の被災地で口腔(こうくう)ケアに当たった「おおた歯科クリニック」(福岡県太宰府市)院長、太田秀人さん(48)は「食料の確保などに追われ、後回しになりがちだが、口腔ケアは命を守ることにつながる」と、その重要性を訴える。

 全く水がなくても、できることはある。指に巻き付けたティッシュやハンカチで歯をこする=写真(2)=だけでも意味があるという。ティッシュは汚れたら巻き付ける部分を少しずつずらして、口の中全体をきれいにしよう。歯ブラシがあれば、ブラシの汚れをティッシュで拭き取りながら歯を磨ける。水はおちょこ1杯分でもうがいができる。隅々まで行き渡るよう「クチュクチュ」というイメージでうがいする。

 口の中が乾燥すると細菌が増えるので唾液の分泌を促すのも有効だ。太田さんのお勧めは福岡市の内科医、今井一彰さんが考案した「あいうべ体操」。「あー、いー、うー」と大きく口を動かし、最後に「べー」と舌を出す。これを1日30回繰り返せば口周りや舌の筋肉が鍛えられ、唾液が出やすくなる。誤嚥も起こしにくくなるという。

 避難生活では栄養バランスのいい食事が取れなかったり、ストレスがたまったりすることで口内炎や感染症も増える。口腔ケアはこれらの予防にも役立ち、太田さんは「非常袋に家族全員分の歯ブラシを入れておいてほしい」と呼び掛ける。


=2017/04/29付 西日本新聞朝刊=

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