今、田園回帰は 農山漁村の定住願望が倍増

西日本新聞

 NPO法人ローカル・グランドデザイン 坂本誠理事に聞く

 人口減、少子化に伴う地方消滅の危機が指摘される中、都市住民が地方に移住する「田園回帰」が注目されつつある。それは東京一極集中を是正し、地域社会に活力を生む流れにつながるのか。地域活性化の取り組みなどに携わるNPO法人「ローカル・グランドデザイン」(東京)の坂本誠理事(41)に聞いた。

 ◆交流から「連帯人口」増へ

 -日本創成会議は、全国896市町村を消滅可能性があると指摘した。

 「人口の将来推計だけで地域社会の存続について論じているのは、いかがなものか。人口だけで地域の力は決まらない。地域は人と人のネットワークでも支えられている。その関係性は地方がよほど過密で、都会は過疎だ。歴史的には、ある土地に人が住み、離れることが繰り返されてきたし、今後も人が住まなくなる所は出てくるかもしれないが、人の関わりは簡単には消えない。神社が残り、そこを出身者が守りながら祭りを続けることもある」

 -東京一極集中を是正し、地方の人口減に歯止めをかけるとする安倍内閣の「地方創生」をどう見るか。

 「人口獲得競争になり、中央集権的に進められ、すぐ結果を出すよう求めているようだ。期限までに地方版総合戦略をつくり、それが先導的なら交付金をつけるなどと、国がとことん縛りをかけ、地方分権とは逆行した流れになっている」

 -田園回帰は、現状の課題解決につながるだろうか。

 「人の流れ、意識が大きく変わりつつあるのは確かだ。内閣府の調査で、農山漁村への定住願望が、従来関心がなかった30~40代で倍増の勢いなのが示唆的だ=「農山漁村への定住願望の変化」参照。背景には東日本大震災後の意識変化、標準的なライフコースの崩壊があるとみられる。都会の大学を出て就職しても将来は不安、農山漁村で可能性を追ってみようという人が一定の数いる。ただ、意識変化が実際の定住につながらず、全体的な流れになっていない。思いを行動につなげるために何をすればいいか、考えなければならない」

 「また、田園に移住する若者が増えていることと、マクロ的な東京一極集中の解決は単純に結びつけない方がいい。田園回帰が進むから地方は消滅しないという論理では足をすくわれる。動きはあくまでもミクロ的で、むしろ若者の東京一極集中が進んでいる。今まで20~30代のUターンは一定数あったが、2000年代に入り激減した。タワーマンション建設などでの都心回帰、地方の雇用環境悪化によりUターンの受け皿がなくなったことなどが理由だ。特にこれまで地域雇用を下支えしてきた建設、製造、公務員の就業者数の減少は深刻だ。こうした問題を何とかしないと大きな流れにはならない」

 -具体的に何が必要か?

 「地方での所得を上げるだけでなく、支出を抑制することで経済的な収支を合わせることが大事だ。地方の子育て世代が都会に出て行く理由に教育の問題がある。所得水準は都会が高いのに、地方の教育費負担は仕送りも含めれば割高。子が都会の大学に入れば教育費が家計を圧迫する。教育費はこれまで家庭に委ねられすぎていた。社会の仕組みを根本的に是正する必要がある。また、行政が移住者に住宅や農地をやみくもにあっせんするのではなく、移住者を地域に紹介するにとどめ、あとは地域のネットワークに委ねた方が移住者も定着しやすい。ただ、地域のマネジメント力が落ちており、その立て直しが必要だ」

 -総務省の「地域おこし協力隊」制度が、田園回帰に一定の貢献をしているようだ。

 「やってきた若者に依存せず、若者と一緒に何かをつくっていく意識があれば移住者も定着する。『いまは大変だけど将来に向けてこうしたい。一緒に頑張ってくれないか』と同志を募るつもりで呼びかければ、若者は集まりやすい。企業の採用活動と同じだ。受け入れる自治体などの能力が試される」

 「これからは地方と都市の二地域居住という形があっていい。今まで定住人口ばかりを取り上げてきたが、今後は交流人口、さらに『連帯人口』を増やそうと考えてはどうだろう。一緒に地域を支える、定住しなくても地域づくりに一緒に関わる人をどれだけ増やしていけるかだ」


 坂本 誠氏(さかもと・まこと) 高知市生まれ。東大法学部卒。東大大学院農学生命科学研究科農業資源経済学専攻単位取得退学。高知県梼原町地域振興アドバイザー、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構農村工学研究所、全国町村会調査室長などを経て2015年から現職。農学博士。

 ◆地方移住促進の切り札に

 都市から過疎地などに、一定の期間移り住み、地域おこしや住民の生活支援などを行う「地域おこし協力隊」が注目されている。隊員数は、制度がスタートした2009年度の89人から、15年度には2625人に増加。おおむね1年以上3年以下とされる任期終了後に定住する人も出ている。

 協力隊は、地方公共団体が、都市から過疎地などの条件不利地域に住民票を移した人に委嘱。隊員1人当たり年間400万円(報償費など200万円、活動経費など200万円)▽隊員の起業の初期経費などとして1人当たり100万円▽地方公共団体の隊員募集などの経費200万円-を上限として特別交付金による財政支援がある。

 総務省地域自立応援課によると、従来は自治会長や役場職員OBなどが任命され、地域住民と活性化に汗を流す「集落支援員」制度があったが、ほかのNPO法人の活動も参考に協力隊を制度化。移住の流れをつくるとともに、高齢化、人口減などに悩む地方の支援活動も期待した。活動内容に制約はないが、あくまでも都市から地方への移住が条件で、都市から都市への移住の場合は認められない。

 15年度の隊員は20~30代が約8割で、約4割は女性。15年3月末までに任期を終えた隊員の約6割は、同じ地域に定住した。さらに、定住者のうちカフェやゲストハウス、特産品開発などで起業した人は前回調査(13年)の9%から17%(15年)に増えている。

 同課は「リーマン・ショック以降、大企業の安定した職に必ずしも価値観を感じないという人や、東日本大震災を契機に食べ物が自給できる田舎での生活に関心を持つ若者が出ている」と、意識の変化を指摘。

 熱心だった隊員が任期切れで土地を離れると住民の喪失感が大きいことや、隊員の4割は定住していないという側面もあるが、同課は農水省の制度統合も踏まえて、隊員数の目標を16年度に3千人、20年度4千人としており、地方への若者の移住を促進する効果を期待している。

=2016/10/21付 西日本新聞朝刊(オピニオン)=

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