焼酎を味わう<上>勝負は0.2% イモ、麹、工程で差

西日本新聞

 新入生の歓迎行事でにぎわう4月上旬の鹿児島大キャンパス(鹿児島市)。農学部の焼酎・発酵学教育研究センターの研究室で、焼酎メーカー濱田酒造(鹿児島県いちき串木野市)の研究員、久(ひさし)遼馬さん(25)は2日間、測定機器に向き合った。「新銘柄の開発に向けた香り成分の分析です。商品価値や品質を見える化(数値化)することによって他の銘柄との違いを明確にアピールできますから」

 芋焼酎は、原料のサツマイモと米麹(こうじ)、水を仕込んで発酵させ、できたもろみを加熱し、蒸気を冷やして造る蒸留酒だ。「焼酎の中身はほぼ水とアルコール。違いを生むのは全体の0・2%の微量成分」。センターの高峯和則教授(焼酎製造学)が説明する。

 久さんはセンターとの共同研究の一環で、成分をより詳しく測定できる大学の質量分析計を活用する。特徴ある商品を生み出すため0・2%の世界でしのぎを削る。

      ◇

 芋焼酎を含む本格焼酎は2000年代、焼酎ブームに乗って売り上げを伸ばしたが、07年ごろをピークに微減が続く。南九州酒販(鹿児島市)は10年、「再び鹿児島の焼酎をアピールしよう」と福岡市中央区渡辺通に専門店「薩摩焼酎蔵 匠(たくみ)」を出店、約80社の約650銘柄を扱う。「どれも味わいは微妙に違う」と土谷恵子店長(40)が言う。

 数百種類ともされる微量成分が醸す味わいはどのように生まれるのだろうか。 香りが、そのもとになる化合物がはっきりしているのに対し「味そのものは永遠の課題」と高峯教授は表現する。味のもとになるタンパク質や糖類は蒸発しないため、もろみから蒸留酒には移らないはずだが、味わいは確かに感じるからだ。

 理由の一つは味覚の複雑さにある。「味には甘味、苦味、酸味、塩味、うま味の五味があるが、例えばチョコレートやカレーの味を感じるのは、五味に匂いが一緒になるから。焼酎の味わいも同じではないか」と高峯教授。

 もう一つは脂肪酸エステルという成分の作用。「味にも香りにも影響する」と宮崎大の水光(すいこう)正仁副学長(応用生物化学)が指摘する。エステルはバナナなど果物の芳香成分でもあるが「唾液と混ざることで舌の味覚神経を刺激する」。

     ◇◇

 こうした成分は麹や酵母の働きで生じる。芋焼酎独特の甘みをもたらす成分の一つがサツマイモ由来のβ-ダマセノン。南九州では晩酌を「だれやめ」という。一日の終わりの癒やしの意味合いが入る。お湯割りにホッとする理由はこの影響が大きい。

 味わいを変える成分を求めてイモの品種も多様化している。一般的なイモの風味を醸す「黄金千貫(こがねせんがん)」が主流だが「ムラサキマサリ」など紫イモ系はヨーグルト的、だいだい色の「ベニハヤト」などの品種はにんじんジュースのような、と表現される香りを生み出す。

 イモのでんぷんを糖化する麹菌の違いも大きい。焼酎ブームの火付け役ともいえる黒麹は甘味とこく、切れのある辛口の成分が特徴。対する白麹は穏やかでイモの風味が豊かな甘口の成分をもたらす。元来、日本酒に使われる黄麹を使う蔵も最近は目立つが、こちらはフルーティーな風味を生み出す。

 製造過程の温度や時間など環境の違いも成分を変える。米麹を造る工程の後半の温度を低めの35度にし麹菌がクエン酸を多く生成するよう制御すると、もろみの酸度がより高まり「フルーティー」と描写されるかんきつ系の香りが強くなる。

 原料の選択、麹造り、温度なども含めてすべての醸造環境が微量成分の生成に関わる。「焼酎をデザインする」(水光副学長)味わいがここにある。

     ◇◇◇

 九州の気候と風土が培い、日常に溶け込んだ芋焼酎の世界を訪ねる。

 ▼お湯割り 高峯教授によると、理想の温度は50度。柔らかさ、甘さ、程よい香りを感じられる。焼酎6に対してお湯4、いわゆるロクヨンのお湯割りが15度ぐらいのアルコール度数になり、温度的にもちょうどよい。グラスにお湯を先に注ぐと対流が起きて混ざりやすい。さらにコップも温めてくれ、お湯も少しさめる。熱すぎない適温で飲むためにも、お湯が先の方が望ましいという。


=2017/05/17付 西日本新聞朝刊=

PR

くらし アクセスランキング

PR

注目のテーマ