焼酎を味わう<下>5160万本 五感と技が醸し出す

西日本新聞

 霧島連山を間近に仰ぐ宮崎県都城市の都城盆地。ここに1916(大正5)年創業の焼酎メーカー、霧島酒造がある。従業員数550人。2015年は一升瓶に換算して5160万本分、589億円(帝国データバンク調べ)を売り上げ、2位に100億円以上の差をつけ売上高4年連続日本一となった。8割近くを占める主力銘柄「黒霧島」は日本で最も飲まれている焼酎の一つだろう。

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 11年に稼働した本社増設工場は巨大な酒蔵のように見える。

 1次仕込み室に入ると、甘酒のような香りの中に、ツンとした酸のにおいをわずかに感じた。直径2・8メートル、深さ4メートルのタンクが28ある。毎日17トンの米麹(こうじ)と、水、酵母が新たに四つのタンクに投入され、それぞれ5日間発酵させる。

 焼酎造りの工程は米蒸し、米麹造り、1次仕込み、選別して蒸したサツマイモを加える2次仕込み、出来上がったもろみの蒸留、原酒の熟成、ブレンドによる商品化という流れになる。

 44のタンクが並ぶ2次仕込み室には、サツマイモの風味も残る甘い香りが漂う。発酵期間は8日間。2日目のタンクの中は表面に無数の気泡が広がり、盛んに発酵しているのが分かる。手をかざすとぬくもりを感じた。「もろみの温度が上がり過ぎないようタンクを覆う冷却装置が働いています」と本社工場課長の桜井斉さん(46)。冷えた外側に向けて内側からの流れが水面で起こり、生きているかのように対流する。

 どろどろの状態のもろみは全体を均一に保つため、必要に応じてかくはんする。かつては櫂(かい)棒を使って作業員が混ぜたが、空気を送り込むエアーかくはん機に変わった。

 機械化された工程にも、すべて要所で人の手が入る。4カ所の工場に毎日届く計68トンの麹用の米。蒸す前の水に浸す時間は、季節や米の状態によって現場の責任者が判断する。仕込む前に欠かせない麹の出来の確認も、作業員が実際に麹を口にして次に移行するかどうかを決める。酸度を測定して確認もするが、結果は3時間後しか出てこない。「毎回、測定結果が出るときは答え合わせをされる気分のようです」と桜井さんは笑う。

 日に340トンを消費するイモは8~12月は収穫してそのまま蒸して使用、それ以外の時期は、蒸して冷凍保管しておいたものを使う。表面の傷みや腐れは品質を大きく左右する。切除、選別するのはすべて手作業だ。

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 伝統の銘柄「霧島」が昨年11月、宮崎県内限定で発売された。以前の霧島をリニューアルした「白霧島」が15年1月に出たが、「昔の味が懐かしい」「甘すぎる」といった声に押される形での復活劇だった。洗練された味がファンを広げる一方、物足りなさを訴える昔ながらのファンもいる。嗜好(しこう)の世界の妙味だろう。

 こうした銘柄の味を調整するのがブレンダーと呼ばれる人たち。仕込みの条件が同じでもイモの収穫時期や畑が違えば酒質は変わる。工場ごとに原酒も微妙に違う。実際に口に含んで特徴を把握して組み合わせ、各銘柄の味と香りを構成する。ブレは最小限にしなければならない。香りや味の成分を研究する部署と連携しつつ、5人のブレンダーの五感が5千万本の商品の味と香りを決める。

 「霧島」の製法は昔の記録が残されていたが、今回の復活では「昔ながらの飲み応えを意識しつつ、新しさも融合した」と担当ブレンダーの亀沢大規さん(38)は語る。麹や酵母の組み合わせなどを試す仕込みテストとブレンドの作業を並行、約1年で商品化にこぎつけた。細心の作業に苦労も絶えないが「霧島、おいしいね」との言葉が最高にうれしい。

 先人が培い、継承されてきた技術は機械化されながらも、なお職人たちの五感と技が味を左右する。

 誕生から400年を超える焼酎。今宵(こよい)もにぎやかに杯を酌み交わす人たちの癒やしと和みの時を醸す。


=2017/05/31付 西日本新聞朝刊=

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