漁師が伝えた「決まり」 沖ノ島と人々(2)

西日本新聞

 沖ノ島には「お言わずさま」という決まりごとがある。いわく、島で見聞きしたことを他言してはならない-。

 宗像市の沖合約11キロに浮かぶ大島の人々は代々、沖ノ島周辺の海で漁を営みつつ、その神聖を守ってきた。「(沖ノ島からは)一木一草たりとも持ち出さない」という決まりもあり、このため、漁から戻った漁師たちは今も網に巻き込まれた砂を「沖ノ島さまのものだから」と次の漁で海に戻す。

 島の北岸には、沖ノ島に渡れない人々が島影を望むための沖津宮(おきつみや)遥拝所(ようはいしょ)がある。社殿についての記録は元禄16(1703)年以降しかない。だがそれ以前から漁師たちが漁に出ている間、家族は島影を探しては手を合わせ、無事を祈ってきた。

 「沖ノ島を守ってきたというより、守ってもらってきたという思いが島民には強い」。大島で生まれ育った板矢英之さん(73)はそう話す。

 遥拝所をはじめ沖ノ島がよく見える10カ所のポイントを選び、ほぼ毎日、足を運ぶ。板矢さんが「ここから見る沖ノ島は絶景」と薦めるのは、玄界灘を見下ろす丘にある旧日本軍の砲台跡と、近くの風車展望所。この2カ所のちょうど真ん中に沖ノ島が見える。板矢さんはこれまで撮った沖ノ島の写真を集め、冊子にして持ち歩く。

 5月初旬に私(記者)がこの場所を訪ねたときは、ゴツゴツとした沖ノ島のシルエットがかすんで見えた。「この季節は、3日に1回見えるかどうか」と板矢さん。

 「きょうは(沖ノ島は)見えたね?」。島の人とすれ違うたびに板矢さんは尋ねる。島の人たちは沖ノ島が見える場所をよく知っており、眺望のいい日は携帯電話のカメラなどで撮影して見せ合う。もちろん、シャッターを切る前に手を合わせることも忘れない。

 夕暮れに見えた日は、おごそかな気分になるという。「あすも吉日でありますように」。沖合を航行する船を眺めながら祈る。

=2017/06/07付 西日本新聞朝刊=

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