「魚ソムリエ」味わい深める 知識を広めて、楽しくおいしく

西日本新聞

 「魚は新鮮さが命。刺し身に限る」。「だよね」。そんな会話がきょうも福博の夜の街で交わされるのだろう。でも「もっと違う味わい方を」と提案する会があると聞いた。「魚会(うおかい)」というそうだ。

 開催は毎月1回。ちょうど1周年となった10日の会場は福岡市・天神の居酒屋「だるま屋」だった。約50人の参加者がそろったところで正面のスクリーンに玄界灘の地図が映し出された。「深さ150メートルほどの浅い海で、透明度が高く海流も速い。多種の魚が取れる世界有数の漁場です」。福岡県宗像市の漁師、権田幸祐さん(32)が漁場や漁法、漁の苦労を約30分語った。

 インターネットのフェイスブックを通じて参加を呼びかけ、毎回25~50人が集まる。居酒屋やイタリア料理店などを会場にサバ、サワラ、エビなど一つの魚種に絞って料理を提供し、その生態、漁法、名前の由来などを学ぶ。魚と他の食材や酒を組み合わせる企画も始め、この日は第1弾「宗像の魚と野菜」だった。漁師さん5人も交じってヒラマサなどについての魚談議を繰り広げた。

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 仕掛け人は新潟県出身の中束明佳(なかつかさやか)さん(34)。東京海洋大大学院で漁獲量予測などを研究した海洋科学博士だ。国際水産資源研究所(静岡市)を経て2015年から水産資材卸の田中三次郎商店(福岡県小郡市)に勤める。

 福岡に来て何とも挑戦的な感想を抱いた。「魚は新鮮でコリコリした食感はあるけど、あまり味はないなあ」

 適切に処理した魚は1~3日おくと、かつお節に代表されるうま味成分イノシン酸が体内に生じる。締めてしばらくは肉質が硬く、いわゆるプリプリ。それが次第に軟らかくなり、うま味も増す。そんな熟成のおいしさが足りないと感じたという。

 自身、元々は魚を食べるのが好きではなく、研究活動で魚を触り知識を得る中で魅せられていった。魚会を計画したのは「漁の苦労など見えない部分も含めて魚の価値を伝え、楽しく食べるきっかけにしてほしい」と思ったから。店と相談しながら、時には自ら魚を持ち込んだ。魚をさばく講習会や長崎県・鷹島のマグロ養殖場見学のバスツアーも仕立てた。

 こうした企画が参加者には新鮮に映る。「刺し身のレベルは高い。でも凝った料理は食べてないと気付いた」。そう語るのは、東京にいた約10年、全国の出張先で魚を食してきたという大学非常勤講師の井料洋美さん(50)=福岡市。2月の会で味わった、軽くあぶったサワラをシャンピニオンソースで仕上げた品は「しっとりして口の中でとろけた」。マリネ、スープなどサワラ尽くしの8品に「こんなにいろんな食べ方ができるんだと世界観が広がった」。

 会場となった福岡市・大名の「コマツ プルミエ」の料理長、松竹剛さん(36)も「一つの魚種でこれだけメニューをそろえたのは初めて。良い経験になった」と語った。

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 テーブルには宗像産の魚の刺し身や煮付け、野菜スティックのバーニャカウダ添えなどが並んだ。「良い素材だけに余計な手間をかけず、食べやすさを心掛けた」とだるま屋店長の本部侑哉(ゆうき)さん(32)は語る。

 会場には水産関係の業者や県の担当者、研究者の姿もある。自身も市民参加の催しなどを開いてきた権田さんは「良い形で交流し、魚を食べる文化を次世代に残したい」と言い、魚会の取り組みにも期待した。

 参加4回目という九州大の文書館協力研究員、市原猛志さん(37)は「魚のいろんな情報を知ればもっとおいしくなる。おいしさの本質を伝えてくれる中束さんのような『魚ソムリエ』がもっと必要では」と話してくれた。

 確かに魚離れが言われる中、市民が魚の魅力や味わいを知るためには、漁師や料理人、鮮魚店のような「魚ソムリエ」の存在が欠かせない。魚を食べる文化の継承も、小さな取り組みの積み重ねだろう。魚に恵まれた福岡だからこそ、心に留めたい。


=2017/06/14付 西日本新聞朝刊=

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