【日日是好日】今を生き続ける大切な言葉 羅漢寺次期住職 太田英華

西日本新聞

 日没と同時に大合唱のカエルたち。色鮮やかな紫陽花(あじさい)たちや苔(こけ)の絨毯(じゅうたん)、麓の田んぼの稲も待ちわびた梅雨。久しぶりの雨だね。アヤメや栗(くり)の花も咲いています。

 羅漢寺シンボルの池の鯉(こい)たち。縦横無尽に池を泳ぎ、蛇口の水と戯れる。気持ちよさそうな姿に一緒に泳ぎたくなる。

 夜の洞窟に光の点を発見。数匹のホタルが帰ってきてくれました。

 梅雨の晴れ間。指月庵庭園へ行く道すがら空を見上げると、ひときわ背が高くなった紅葉が作る小道の木陰。小さな紅葉の葉からの木漏れ日は爽やかな夏の風景。思わず大きく深呼吸を。

 久々に立正佼成会の橋本さんが汗を拭き拭きやって来られました。彼は熱心な勉強家。「家内と一緒にインドに行ってきました。苦労させたから女房孝行でね。今やっと気付くことが多くて、それでこの前家内に言ったんです。大家族を面倒見てくれて大変やったなって。そうしたら、けげんな顔をしてこう言うんです。『あなたが好きだからよ』って。驚きましたよ」と。

 「えっ!すごいなあその言葉。なかなか言えないよな」

 「家内とはお見合いなんですけど、私は再婚でね。何度かお見合いを繰り返してはいたんですが、ある方にどういうつもりでお見合いしてるの?と聞かれ、長男だし両親や家業の事を面倒見てくれる人に会えればって言ったらすごく怒られたんですよ。『あなたはどうして自分をさらけ出さないの!』って。それで、はっと気づいてそのままの自分でお見合いした相手が家内なんです。家内は『あなたにはすべてをさらけ出せる』って言ってくれるんです」

 気が付けば2時間近く立ち話。橋本さんとの会話はいつも発展がある。随分先輩でいらっしゃるのに腰の低い方。

「奥さんによろしく」とお伝えし、橋本さんはまた汗を拭き拭き下りて行かれました。

 ふと思い出しました。今から26年前、旧厚生省の研究機関で勉強しているとき体調不良で入院。知らせを聞いて東京に駆け付けた父は、原因が分からずただ苦しんでいる私に、「いい子でいる必要はないんだよ」と。私は意識がもうろうとする中、意外な父の言葉に驚いたものの、いい子でいようなんて思ってないのに…とちょっと不満。

 その後体調不良の原因がはしかだと分かり、結局それから3週間入院しました。父が亡くなって14年。遺品の整理で見つけた「禅語百選」という小さな本。あの時の父は、この本を今の私が大切に読むと思ったか思わなかったか、「いい子」の言葉を反すうしました。その人がいなくなっても今を生き続ける大切な言葉や感動、生きざま。

 「本来の優しい自分を、すべての人がとり戻す日までまず、私から優しさをとり戻します」。橋本さんの名刺の裏に書かれたことばを改めて読み直しました。

 【略歴】1967年、羅漢寺27代住職の娘として生まれる。高校卒業後、大学進学のため上京。20代半ばから40歳で出家するまでフラメンコダンサーとして活動。出家後、愛知県の尼僧専門修行道場で約5年間、僧堂修行し、2013年3月に帰山。現在羅漢寺28代次期住職として寺を守る。


=2017/06/25付 西日本新聞朝刊=

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