【孤立化する社会】 丸山 泉さん

西日本新聞

 ◆「つながり」意識持とう

 日本の合計特殊出生率(1人の女性が一生に産む子どもの数の平均)は「丙午(ひのえうま)」による落ち込みは別としても、1947年からの第1次ベビーブーム、71年からの第2次ベビーブーム以降は右肩下がりが続き、最近やっと緩やかな上昇を示している。

 ただ、少子化の問題を解決するには程遠い。人口減少がどんな未来を招くかという議論はさておき、子どもが少なくなっている。一方で、子どもに対する虐待や育児放棄は右肩上がりで、児童相談所が対応した件数は2015年度に初めて10万件を超えた。認識の広がりによって隠れていたものが顕在化したこともあろうが、それにしても多い。

 高齢者においては孤独死が増えている。東京都の統計によると、65歳以上の孤独死は4291件(11年)。虐待も増加している。厚生労働省の調査では、日常の世話をしている家族や親族などによるお年寄りの虐待は、14年度は1万5739件で、10年間で約1・25倍になった。

 高齢者の総数は増え、子どもは減少しており、数字の意味は大きく違う。子どもの虐待が圧倒的に増加しているのだ。もちろん、誰に対する虐待も許してはならないことは言うまでもない。

 経済協力開発機構(OECD)の調査によると、社会的に孤立感を抱いている人は主要21カ国の中で日本が最も高かった。

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 某小学校の建設問題で露呈したさまざまな疑惑や、某衆院議員の乗用車内での常軌を逸した言動が問題になっている。そもそも教育とは何かという議論が不足しているし、医師としてはこうした言動への精神医学的な心配もある。併せて、日本社会における同質の課題が潜んでいるように思えてならない。

 どうしてこのように、いらついた社会になってしまったのだろうか。どうしてこのように、浅慮がまかり通る社会になってしまったのだろうか。どうしてこのように、強弱二極化した社会になってしまったのだろうか。

 国民生活基礎調査によると、子どもの7人に1人が貧困状態で暮らしていると言われている。このことは健康にも影響を与えており、例えば虫歯の本数や予防接種率においても明らかに差が出ている(東京都足立区調査)。

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 米国の医師、ジョージ・エンゲルが1977年、従来の生物医学モデルに対する新しい医学観として「生物心理社会モデル」を提唱した。

 病とその原因を単純明快に説明するのではなく、病とは生物的、心理的、社会的などの複雑な要因から現れたものだという考え方である。原子、分子、細胞、組織、臓器、人、そして人と人、家族、コミュニティー、文化、社会や国、地球…というように、すべてが連続しているという視点で病を捉える。

 臓器だけを治療しても、その人の生活の質が変わらなければ何になるだろうか、という問いへの答えでもある。現代医療への問題提起だったが、この国に内在する社会的課題にも適用されるだろう。

 私たちは過度に国に頼るべきではない。自らの足元は自らの手で豊かにしなくてはならない。私たちは議決権を託す議員を選ぶが、すべての責任は私たちにある。まずあるべきものは、日々のふるまいによって形づくられる私自身と、私とあなた、家庭や近隣、そして属するコミュニティーの集合体としての健全な社会ではないか。

 「社会は有機的であり、すべての人と人は連続性、つながりを持っている」という意識をいかに持ち続けるか。私たちが、そばにある不幸やもがき、苦しみに気付かない限り「美しい国」には程遠い。

 【略歴】1949年、福岡県久留米市生まれ。久留米大医学部卒の内科医。福岡県小郡市で医師会活動の後、NPO法人で地域の健康増進活動に取り組む。2012年6月から日本プライマリ・ケア連合学会理事長。父は医師で詩人の丸山豊。


=2017/07/02付 西日本新聞朝刊=

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