アントワープ(ベルギー) フランダースの犬を訪ねて

西日本新聞

アントワープ中央駅の内部 拡大

アントワープ中央駅の内部

ノートルダム大聖堂の塔とルーベンスの像。大聖堂は1352年から約170年かけて建てられた ルーベンスの「キリスト昇架」 ルーベンスの「キリスト降架」 ステーン城 市庁舎とブラボーの像(手前右)

 「フランダースの犬」の悲しい物語に、切ない気持ちになったのは、いつの日のことだっただろう。小学生の時か、それとも、もっと幼い時だったか。中年となった今になり、この名作を思い出したのは、作品の舞台ベルギーを仕事で訪ねたからだ。少年ネロとパトラッシュに会えるかもと空いた時間を利用してアントワープへ出掛けた。

 ガイドブックによると、首都ブリュッセルからアントワープに行くには鉄道が便利のようだ。早速、ブリュッセル中央駅へ。日本では珍しい2階建て列車が走っており、それに乗ると約40分でアントワープ中央駅に着いた。

 目的地はノートルダム大聖堂。ネロとパトラッシュが天へと旅立った物語の悲しい結末の場所。中央駅から歩いて行ける距離なので、すぐに向かおうとしたが、しばらく中央駅にとどまった。

 というのはこの駅、1895年から10年かけて建てられた「芸術品」。国の重要文化財に指定されており、鑑賞せずにはいられなかったのだ。ちなみに作家ウィーダ(1839~1908)が「フランダースの犬」を書いたのは駅建設前の1872年。当時からこの駅があれば、物語にも登場したことだろう。

 アントワープは世界のダイヤモンド取引の中心地。中央駅から延びるメインストリートを歩いている時にも宝石店を見かけた。一方でマクドナルドやユニクロの店舗もあった。

 訪れた日は快晴。心地よさを感じながら歩き続けていると、高さ約123メートルのノートルダム大聖堂が見えてきた。そばには画家ルーベンス(1577~1640)の像もあった。

 大聖堂は、さながら美術館。ネロが見たいと切望したルーベンスの祭壇画「キリスト昇架」「キリスト降架」をはじめ、別の巨匠の絵画や銅像など多数の作品が展示されている。入場料は6ユーロ(約750円)。チケット売りの女性は「フラッシュをたかなければ、写真撮影もどうぞ」とほほ笑んだ。聖堂内は若者グループなど大勢の人がいた。それでも静かだった。

 おじいさんが亡くなり、住まいからも追い出され、頼みの絵画コンクールも落選してしまったネロ。雪に凍える夜、大聖堂を訪ねたのは「キリスト昇架」と「キリスト降架」を最期に一目見たかったからか。そんなことを思いながら堂内を巡っていると、その2作の前にたどり着いた。

 ネロは月明かりで両作を見ることができた。しかし、体は冷え切っており、追ってきたパトラッシュと、そのままそこで亡くなった-。そんな物語の最後の場所に立って、ルーベンスの傑作をしばらく眺めた。年を重ねたせいか、切ない気持ちが湧き上がってくることはなかったけれど。

 併設の土産売り場ものぞいた。日本語で「ネロ&パトラッシュ」と刻まれたコインが2ユーロ(約250円)で売られていた。大勢の日本人が訪れていることがうかがえた。

 ●メモ

 ベルギーは人口約1135万人で面積は日本の約12分の1。公用語はオランダ語、フランス語、ドイツ語。首都ブリュッセルには欧州連合(EU)本部がある。アントワープは15世紀から商業などで発展したベルギー代表都市の一つ。人口約50万人。全日空が成田からブリュッセルまで直行便を運航。飛行時間は往路12時間、復路約11時間半。

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 ●寄り道=人気のステーン城

 アントワープは見どころがたくさん。うち一つが、シュヘルド川沿いにあるステーン城。10~16世紀に使用された要塞(ようさい)の一部で、19世紀に修復されたという。石を積み上げて造られているようだった。

 1561年から65年にかけて建てられた市庁舎も人気スポット。建物前の広場には、古代ローマの兵士ブラボー像が付いた噴水も。ただ、訪れた時に水はなく、噴水は巨大な台座に見えた。


=2017/07/10 西日本新聞=