【リーダー選びの観点】 藻谷 浩介さん

西日本新聞

◆現場に立って考えよ

 温暖化により凶悪さを増す梅雨時の集中豪雨。今年も凄(すさ)まじい被害が筑後川中流域を襲った。お亡くなりになった方々、今なお行方不明の方々、家財や思い出の品々を失った方々、そしてそのご親族やご友人の方々にも、心よりお悔やみとお見舞いの言葉を申し上げたい。泥流に埋まった現場で懸命に捜索・復旧に従事しておられる自衛隊、消防団、医療関係者、各種公務員、ボランティアなどの方々にも頭が下がるばかりである。

 ところで、懸命の救助活動が進められていた災害翌日の昼間に、東京の防衛省では、大臣、副大臣、政務官の政務三役4名(いずれも国会議員)の全員が席を外した時間が、40分程度あったと報じられた。ネットには、「席を外すとは責任感がなさすぎる」と怒るコメントと、「政権の足を引っ張るな」と逆の方向で怒るコメントがあふれたが、皆さんはどうお感じになっただろうか。

 災害対策の現場経験のある人なら、そのどちらでもないことを考えただろう。「4人もいるのだから、用務の時間を調整し、少なくとも昼間は常に誰か1人席にいるようにできたはず。なぜ大臣はそう指示しなかったのか」と。

   ---◆---

 防衛省という国家の緊急時に対処すべき組織のトップが、全国大小の職場が当たり前に行っている昼休みの電話当番決め程度の行動を取れないようでは、組織のモラルは下がる。結局、北朝鮮情勢緊迫のタイミングに大臣と次官が同時に辞任する事態となったが、この責任が、かかる大臣を任命し更迭を拒否した首相にあるのは明らかだ。

 このことに限らない。国政でも地方政治でも同じなのだが、どうして日本国の有権者は、現場感覚を欠いた人をリーダーに選びがちなのか。容姿だとか、血筋だとか、テレビで話がうまかったとか、何でまたそういうことが判断基準になってしまうのか。あなた自身の職場体験に立って考えてみてほしい。口はうまいが現場経験の決定的に足りない上司が、思い付きで部下を振り回し、しかもそんな上司をむやみにかばう訳の分からない役員だの社長だのがいて、皆がやる気をなくした経験はなかったかと。遠慮することはない。「誰だったら現場を元気にして、部下のモラルダウンを防ぐことができるか」という観点から、リーダーを選ぶべきなのである。

   ---◆---

 話題の加計(かけ)学園問題についても、感じることは同じだ。十数年前から計画されていたという、加計学園が愛媛県今治市で獣医学部を新設する構想を巡る国家戦略特区の選定基準(いわゆる石破4条件)に照らした内容の乏しさと、1年前に出てきた話ながらよく練り込まれていた京都産業大学の構想の充実ぶり。後者の関係者は筆者に「内容では明らかにウチが勝っていたのに、来年4月という間に合うはずもない期限が出てきて断念を余儀なくされた」と無念の思いを語った。例えるなら、営業マンが有望な新規取引先候補を見つけてきたのに、理由も示されずに却下され、昔からアプローチがあって経営者同士が知り合いというだけの他社が選ばれたようなものだ。全国の規制改革の現場で、どれだけのモラルダウンが生じていることだろうか。

 「政治なんて誰がやっても同じ」「リーダーの務まる人材がいない」とか言っているあなた。話を難しくせず「自分の直属の上司になったらうまく現場が回りそうなのは誰か」と考えればいい。広い日本、適材はいくらでも存在する。少なくとも複数候補がいれば、誰が一番マシか比較できるのだ。地を這(は)う経験を通じ少しでも多くの現場感覚を養ったリーダーを選ぶことが、今ほど必要な時代はない。

 【略歴】1964年、山口県徳山市(現周南市)生まれ。88年東京大法学部卒、日本開発銀行(現日本政策投資銀行)入行。米コロンビア大経営大学院で経営学修士(MBA)取得。2012年1月から現職。著書に「デフレの正体」「里山資本主義」など。


=2017/07/30付 西日本新聞朝刊=

PR

社説・コラム アクセスランキング

PR

注目のテーマ