避難所での誤嚥性肺炎防げ 九州豪雨 歯科チームが被災地巡回 阪神大震災では関連死の1/4占め 熊本地震でも続出

西日本新聞

 九州豪雨の被災地で、高齢者の誤嚥(ごえん)性肺炎を防止する取り組みが続いている。過去の大災害では、避難生活で免疫力が低下した人たちが発症し、死亡するケースもあった。福岡県朝倉市、同東峰村、大分県日田市では7月末現在、肺炎で搬送された避難者は確認されていない。誤嚥性肺炎は、雑菌が食べ物や唾液と一緒に肺に入って発症することから、歯科医や歯科衛生士でつくるチームが避難所を巡回し、口の体操や口腔(こうくう)ケアを呼び掛けている。

 「ちゃんと食べられていますか?」。先月30日、歯科医3人、歯科衛生士2人のチームが、計約100人が避難している朝倉市の公共施設2カ所を訪れ、一人一人に声を掛けて回った。

 「入れ歯の調子が…」。同市黒川の男性(70)が打ち明けた。義歯の安定が悪く、食べ物が詰まるようになったという。避難の際、義歯ケースや洗浄剤を持ち出せず、コップの水に漬けるだけになっていた。歯科衛生士が支援物資の義歯ケースや洗浄剤、義歯の安定剤などを手渡した。

 口の中の汚れが目立つ同市比良松の男性(92)は避難して以来、一度も義歯を洗浄していないことが分かった。地元の歯科医、古賀一伸さん(61)は義歯をブラシで洗って見せ、「ばい菌が増えたら口が腫れたりするから、毎日よく洗ってね」

 この日は他に3チームが朝倉市と東峰村の避難所を巡回。歯科衛生士が、殺菌作用のある唾液の分泌を促し、のみ込む力を付ける「健口体操」=図参照=や「あいうべ体操」を集団指導した。

    ◇   ◇

 こうした歯科チームが被災地に初めて入ったのは豪雨から4日後の7月9日。状況把握の後、同14~26日に福岡県歯科医師会と同県歯科衛生士会、九州大歯学部、九州歯科大、福岡歯科大のチームが毎日巡回した。同30日以降は、朝倉歯科医師会のメンバーが毎週日曜と水曜に回っている。

 県歯科医師会によると、口内炎や歯茎からの出血など、ストレスや食事の偏りが原因とみられる症状が目立つという。義歯にまつわるトラブルも多く、自宅が損壊して義歯を失ったまま10日間過ごしていた男性や、「人前では外したくない」と10日以上も装着し続けていた女性もいた。

 災害時の誤嚥性肺炎が問題視されるようになったのは、1995年の阪神大震災がきっかけだった。水や歯ブラシなどの配布が遅れ、歯磨きができない状態が続いた結果、口内環境が悪化。震災関連死の死因の4分の1を占めたとされる。2004年の新潟県中越地震では約15%だった。

 16年4月の熊本地震では、西日本新聞が各自治体の発表を基に今年4月24日現在でまとめたところ、関連死170人中、死因が公表されているのは96人。うち25人が誤嚥性肺炎、肺炎、誤嚥性肺炎を繰り返した末の呼吸不全だった。25人中15人が入院中か介護施設に入所中だったり、持病があったりとリスクの高い人で、震災から1カ月以内の死亡が7割を占めた。

 被害が局地的だった今回の豪雨では、病院や施設は被災しておらず、避難者の中には、農業をしていた比較的体力のある高齢者も少なくない。ただ、発熱など肺炎につながる症状も時折見られる。朝倉歯科医師会の井上文弘会長は「車を失って歯科診療所に通いにくい人も多い。当分の間は訪問診療などでフォローを続けたい」としている。

 ●自力での通院を促し 「日常」に戻す努力も

 ▼中久木康一・東京医科歯科大大学院助教の話 災害時に歯科医や歯科衛生士が口腔ケアを行う取り組みは、2011年の東日本大震災以降に広まった。九州は最も遅れていたが、昨年の熊本地震で一気に浸透した。今回、誤嚥性肺炎にかかった避難者が確認されていないのは、福岡県歯科医師会や3大学の「熊本経験者」が中心となって早期に介入したことも奏功しているのではないか。

 東日本大震災では、肺炎発症者が例年より多い状態が約3カ月間続いたとの報告がある。保健師など他職種と連携しながら継続して見ていく一方で、全てを巡回チームが行うのではなく、外出が減って心身機能が低下する「生活不活発病」にならないよう、できるだけ自力で通院するよう促し、「日常」に戻していく努力もこれからは必要だ。


=2017/08/07付 西日本新聞朝刊=

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