軍事流用拭えぬ疑念 シリア発電所支援 政府、配給先確認せず継続 紛争激化に拍車の恐れ

西日本新聞 坂本 信博

 「緊急人道支援」を目的とした日本の資金が、結果的に空爆による化学兵器使用につながっているのではないか-。政府によるシリア・ジャンダール火力発電所整備事業への資金提供問題は、紛争地帯への支援で「人道」と「軍事」を線引きする難しさを浮き彫りにした。だが、事態は米軍が巡航ミサイルで攻撃する段階まで来ている。空爆されたアサド政権側の基地を含め、供給先を「特定していない」とし、確認も説明も避ける政府の姿勢は許されない。

 「紛争下の人道支援で必要なことは、支援がかえって紛争激化に拍車を掛けないようにすることだ」。シリア情勢や平和構築に詳しい元国連職員の小泉尊聖(たかきよ)氏(56)は指摘する。

 「Do no harm(害を与えない)」。小泉氏は、こうした事態に至りかねない「もろ刃の援助」を防ぐことが、平和構築の基本だと強調した。

 人道支援は、主に食料や水、衣料、医薬品といった直接人に届く分野と、電力や水道施設などインフラ分野に大別される。

 例えば、政府は1996年以降、国際機関などを通じて、北朝鮮にも人道支援で食料や医薬品をたびたび援助してきた。その際は、物資が売却されてミサイルや核開発の資金とならないよう、「国際機関に援助物資の適正配布・使用を要請し、政府職員を北朝鮮に派遣するなどして、配給状況を確認してきた」(2006年の政府答弁書)。

 シリアも内戦が続き、インフラが破壊され続けている。生活に欠かせない電力は困窮する人への人道支援という意味合いは当然ある。だが、電力は食料や医薬品などと違い「流用可能性」が高く、軍事施設や軍需工場にも供給される可能性がある。「発電所を運営するのはアサド政権。支援の意図とは異なり、結果的に紛争を長引かせてしまうもろ刃の援助になりやすい」と小泉氏は言う。

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 ジャンダール火力発電所を巡っては、シリアでの内戦勃発後、「流用」の危険が顕在化していた。

 整備計画が水面下で動きだしていた14年9月、アサド政権の影響下にある国営シリア・アラブ通信は、アサド政権の電力大臣が「日本政府と国際協力機構(JICA)による発電所の補修は、シリア全土の電力部門の要求を満たすための出発点だ」と歓迎したことを報道している。

 15年12月に西日本新聞が資金提供を報じた後には、岸田文雄外相が「この支援がどのように使われたか、わが国としては確認していくことは大事だ」と記者会見で明言している。

 同火力発電所と、空爆の拠点とされるシャイラト空軍基地は直線距離でわずか10キロしか離れていない。英BBCによると、同基地はアサド政権が13年に廃棄を受け入れるまで、生物化学兵器の格納庫となっていた。15年にシリアで空爆を開始したロシア軍も使用する「最前線基地」という。

 こうした状況をみれば、日本の支援による電力がアサド政権軍に「流用」されることは十分予見できたのではないか。にもかかわらず、政府は今も事業を継続し続けている。

 伊勢崎賢治・東京外国語大大学院教授(国際関係論)は「日本の政府開発援助(ODA)は憲法9条の精神にのっとって軍事目的には絶対使わせないという姿勢を貫いてきた。安倍政権にはこの慣例を崩す動きがあり、懸念している。シリアのような紛争地域での援助は綱渡りだ。軍事利用されないよう、条件付けや検証ができないなら人道援助をしない方がいい」と話した。

シリア・イドリブ県での空爆 今月4日、シリア北西部イドリブ県の反体制派支配地域で、猛毒のサリンなど化学兵器を使ったとみられる空爆があり、多数の住民が死傷した。トランプ米大統領は6日(日本時間7日)、アサド政権軍が化学兵器を使用したと断定。「攻撃の出撃拠点だった」として中部ホムス県のシャイラト空軍基地を巡航ミサイルのトマホーク59発で攻撃した。攻撃は、核・ミサイル開発を進める北朝鮮へのけん制の意味合いもあるとみられる。シリアのアサド大統領は化学兵器使用を否定している。

 化学兵器禁止機関(OPCW)は19日、サリンガスかそれに類似する物質が使われたことを示す分析結果が出たと発表した。

この記事は2017年04月24日付で、内容は当時のものです。

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