無痛分娩 選ぶ前に 利点の半面、リスクも知ろう トラブル対応に残る課題

西日本新聞

 麻酔で痛みを和らげる「無痛分娩(ぶんべん)」を選ぶ妊婦が徐々に増えてきている。出産時の痛みが少ないため産後の回復が早まることが多く、海外では一般的なお産の方法になっている国もある。ただ麻酔の対応を誤った場合などは重大な事故につながるリスクもあるので、メリットとともに注意すべき点も確認しておきたい。

 国内で主流となっているのは「硬膜外鎮痛法」。脊髄の近くにある硬膜外腔(くう)に細い管で麻酔薬を入れ、痛みが子宮や産道から脳に伝わるのをブロックする。

 初産をこれで経験した福岡市早良区の女性(29)は「妊娠中は陣痛や出産への恐怖や不安がなかったし、お産はリラックスして臨めた。回復も早かった」と笑顔で振り返る。

 一方、マイナス面としては、麻酔の影響で力が入りづらくなって出産が長引き、吸引器などで赤ちゃんを引っ張り出す処置が必要になる場合がある。

 麻酔薬の注入は病院側の技量も問われる。誤って薬が脊髄に流入すれば呼吸抑制が起こり、血管内に入ればけいれんなどを起こす合併症のリスクも存在する。

 厚生労働省研究班の調査などによると、重大事故の報告数は、無痛分娩がお産全体に占める割合に照らして、特段多いわけではないと考えられている。

 しかし、出産した女性が死亡したり重い障害を負ったりする事故が今春から大阪府などで相次いで明らかになり、医療体制の問題も指摘されている。

 無痛分娩に詳しい久留米大病院の吉里俊幸・産科診療部長は「本来、微量の麻酔薬を徐々に投与するなどして反応を観察しながら処置すれば重大な事故は防げる。ただ国内ではまだ医師向けのガイドライン(指針)もなく、麻酔の扱いや手順がそれぞれの病院、医師に委ねられているのが現状だ」と課題を挙げる。

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 日本産婦人科医会は6月から、出産を扱う全国の約2400の医療機関を対象に実態調査に乗り出している。中間集計によると、2016年度の出産全体に占める無痛分娩の割合は5・2%。まだまだ少ないが、働く女性が増え、その利点が知られるようになってきたことなどを背景に、徐々に増える傾向にある。このうち約58%は、産科医が一人二役で麻酔も行うケースが多い小規模な診療所でのお産だった。

 北里大学病院(神奈川)で産科麻酔を専門にする加藤里絵医師によると、無痛分娩の実施率はフランスで約80%、米国でも約60%と高い。ただこうした国では、お産に専従する麻酔科医が常駐している大病院に出産が集約されていて、もともと出産の半数ほどを診療所が担う日本とは事情が異なる。加藤さんは「無痛分娩を行う施設全てで、麻酔の安全を担保する仕組みが必要」と考える。

 日本産婦人科医会は調査で実態を把握した上で、分娩時の大量出血や合併症などに適切に対応できる体制を整えるよう今夏にも提言を出す方針。安全確保のための指針作りにも取り組むという。

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 安心して無痛分娩を選択するためには(1)メリットだけでなく、合併症などのリスクと、その対策の説明が十分にあるか(2)緊急時に対応できる複数の医師がいるか-を確認したい。質問に丁寧に答えてくれるかどうかも一つの目安になる。

 あまがせ産婦人科(福岡県大野城市)の吉冨智幸院長は麻酔科で2年の経験を積み、麻酔科標榜(ひょうぼう)医の資格を得て、無痛分娩を積極的に手掛けている。

 吉冨さんは「産科医も麻酔科医も人手不足。全ての診療所に麻酔科医を常駐させるのは不可能だし、大病院でもお産の経験が乏しい麻酔科医と、産科医との連携が課題となっている。『お産は安全にできて当たり前』という考えではなく、きちんと説明を受け、納得した上で出産に臨むようにしてほしい」と話している。


=2017/08/19付 西日本新聞朝刊=

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