タイの物乞いの「宝物」とは

西日本新聞

 「日本からわざわざ来てくれたから、あなたに見せたい物がある」。タイで取材した物乞い男性(65)がこう言った。男性は寺の境内で物乞いをし、ためたお金を「寝泊まりさせてくれるお礼」と毎年、寺に寄贈していた。100万バーツ(約300万円)を寄付し、地元のテレビに取り上げられたこともある。

 ため込んだ札束でも見せてくれるのか、と思ったら違った。男性は厳重に鍵を掛けた物入れの中から、額に収められた1枚の写真を取り出した。「これは私の宝物だ」と示したのは、プミポン国王の肖像写真だった。「王様からもらったんだ」。男性は誇らしげに語った。

 私はその時、プミポン国王が国民に敬愛されてきた理由が少し分かった気がした。社会の底辺にいる人にも目を向け、その善行をたたえる。「王様は雲の上の存在だが、ちゃんと国民のことを見てくれている」。男性はそう信じていた。

 クーデターと社会騒乱を繰り返すタイが内戦状態に陥らなかったのは、「国家統合の父」となった国王の存在があったからだと言われる。貧しき人からも愛された「名君」亡き後のタイは、どこへ向かうのだろうか。

この記事は2016年10月31日付で、内容は当時のものです。

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