親亡き後を託せる地域に 障害ある子の将来は 大分県、別府市 官民そろって模索

西日本新聞

 ●2年かけて解決策/相談窓口も

 わが子を残して死ねるのか-。障害がある子どもと暮らす保護者の一番の不安は、自分たちが亡くなった後に誰が見守るのかという「親亡き後」の問題だ。公的支援や社会資源が十分ではなく、地域に心細さを感じている。大分県では別府市を中心に当事者や支援者、行政が足並みをそろえ、解決を模索し始めた。九州でも先進的なこうした試みの背景や課題を探った。

 昨年11月、別府市。「障がいのある人もない人も心豊かに暮らせる大分県づくり条例」(同4月施行)の制定活動に取り組んだ市民団体「だれもが安心して暮らせる大分県をつくる会」が主催し、親亡き後を考えるフォーラムを初めて開き、障害者や家族、支援者ら約120人が集まった。

 ▼全てが当事者

 「地震を経験し、親亡き後の不安を実感した」。別府市の海のそばの自宅で母(73)と暮らす車椅子の相談支援専門員河野龍児さん(49)は同4月の地震で津波におびえながら避難した。たまたま居候していたおい(22)の手助けで高台に避難したが、母と2人だけなら諦めたかもしれない。

 「親に代わる人がたくさんいることが大切」。まずは全ての人が当事者になり得る「防災」をキーワードに理解を得たいという。

 重度障害の息子(25)がいる同市の永松温子さん(56)は「緊急時の一時預かりの場所もない」と不安を吐露。てんかんがある長男(42)と暮らす大分市の安部綾子さん(70)は「役所の窓口でも家族が見るのが当然と言われる。地域や行政の理解がないと、親は追い詰められる」と訴えた。

 ▼条例に明文化

 県内で「親亡き後」に向けて機運が高まったのは、県条例より2年前に「障害のある人もない人も安心して安全に暮らせる条例」を施行した別府市の取り組みが大きい。市は同条例に、親亡き後のための「総合的な施策を策定し、実施する」と規定。県もこうした課題解消を努力義務とすることを盛り込んだ。いずれも当事者らの強い要請に行政側が応じたもので、法律と同様に拘束力のある条例に明文化したのは珍しい。

 市は解決策を探る検討委員会を設置。2年かけて昨年7月、今後の課題と方向性を報告書にまとめた。検討委員で「つくる会」共同代表の平野亙さん(61)=県立看護科学大准教授=は「日常的な意思決定が難しい人の家族に代わる担い手をどうするか、居住や社会参加の場づくりなど多くの課題が浮き彫りになった」と振り返る。

 今後は取り組みに優先順位をつけて(1)障害者の特性や親亡き後に必要な情報を集約したパンフレットなどの作成(2)相談支援拠点の整備(3)地域の見守りボランティアの育成やグループホームなどの整備促進-などを段階的に進める方針。最終的には「地域単位で見守り、細やかな支援が手厚く受けられる体制」を目指す。

 各市町村でも官民で親亡き後の課題解消に取り組んでもらおうと、同会は各地の当事者らに働き掛けており、フォーラムもその一環。県社会福祉事業団が今年、県内6カ所に相談窓口として「親なきあと相談室」を設けるなど、動きは広がりつつある。

 ▼選べる時代へ

 フォーラムで登壇した安部さんは、大分精神障害者就労推進ネットワークの事務局長も務める。同ネットは2015、16年に精神障害者向けの公的支援サービスや親亡き後のアドバイスをまとめたマニュアルを作成。全国から反響があり、安部さんの元には今も、親たちから子どもの将来を懸念する声が届く。

 誰もが自分の家族を守るのに必死になる災害で、誰が手助けしてくれるのか。わが子が、住居や身を寄せる施設を自由に選べる時代は来るのか。安部さんに確信はない。でも-。「声を上げ続けるしかない。私たち親が元気なうちにね」


=2017/08/24付 西日本新聞朝刊=

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