【日日是好日】過ぎゆく夏思い巡らす 羅漢寺次期住職 太田英華

西日本新聞

 あかね雲が一瞬真っ赤にした西の空、暑さが一気に和らいだ瞬間。太陽が西の山にゆっくり隠れると、次第に辺りは夜の顔に。今まで気付かなかった細い月が、太陽を追いかけるようにゆっくりと西の山へ。

 一番星が瞬くと大きくなっていく虫の声。今日一日の舞台が暗転になり、夜の世界に転換した一瞬。風や虫の声が秋を演出する処暑です。既製の音楽も映像も必要としない生活。毎日の感動が目の前にあります。

 梅雨に入る前から無漏窟(むろくつ)内でポタポタと水漏れが確認され、次第に雨しずくのように。無漏窟は湿気が多いとき、雨降り現象は恒例ですが、突如現れた水漏れに少々不安。幸いにも文化財五百羅漢像や石仏群に直接しずくがかからないにしても、ポタポタと落ちる現象の対策はひたすら雑巾で拭くのみ。

 ある日、今年2年目圓福さんが、お釈迦(しゃか)様の前の空の器になみなみと水が入っているのを発見。無漏窟内中央は拈華微笑(ねんげみしょう)の釈迦如来が座っておられ、その前に供養具を荘厳しておりその中の一つの器。その辺りはぬれた形跡もない為、水をお供えしたのでは?と解釈。しかしそんな記憶はなく、考えられるのはしずく。うまい具合に器の中に入り、お釈迦様にお供えした状態に。

 「あっ!しまった。やっぱり…」

 仏様の前には洒水(しゃすい)といって水をお供えし、毎日新しい水に替え、古い水は仏様周辺の掃除に使用。そういえばお釈迦様の前に洒水がなかった。慌ててお釈迦様の前に洒水をお供えすると不思議にそれ以降、そのほかの水漏れはそのままなのに、供養具の器の中には水がたまらなくなりました。

 お盆が過ぎ、気が付くと水漏れはピタッと止まっており不思議です。お釈迦様があまりの暑さで水欲しさに無漏窟内に、しずく現象を起こされたのか…。判断は文化庁研究班の先生方にお任せいたします。

 夏休みが終わるころ、残暑見舞いが届きました。宛名は古株・梶原さんのご長女麻央ちゃん。麻央ちゃんは小学3年生。小さい頃から羅漢寺に遊びに来ていて、ある時から私と文通を始めました。麻央ちゃんは本が大好きで、面白い本があると紹介してくれます。

 残暑見舞いで今回紹介してくれた本は「小さな山神スズナ姫」(作・富安陽子 偕成社)。山神の大事な仕事の一つ「山の紅葉」を小さなスズナ姫が一人でやりおおせたら、山神として独り立ちを許すというお父さんの山神様との約束。山のキツネたちの力を借りて見事やり遂げる物語。

 なかなか面白く、想像力をかきたて心に残る本。何故なら、目の前にこれから広がる秋の景色はまさに山神様の仕事。麻央ちゃんの本が今年の秋を待ち遠しくしてくれました。

 皆さんの夏休みはいかがでしたか? 休みがあった方も無かった方も、過ぎゆく夏を思い出してはいかがでしょう。今を生きるためにも。

 【略歴】1967年、羅漢寺27代住職の娘として生まれる。高校卒業後、大学進学のため上京。20代半ばから40歳で出家するまでフラメンコダンサーとして活動。出家後、愛知県の尼僧専門修行道場で約5年間、僧堂修行し、2013年3月に帰山。現在羅漢寺28代次期住職として寺を守る。


=2017/08/27付 西日本新聞朝刊=

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