「ここで生きるネット」発 佐藤宣子・九州大大学院農学研究院教授

西日本新聞

◆九州豪雨後の森林政策

 九州豪雨で被災した福岡県朝倉市や東峰村に計4回、調査に入り、痛感した。この災害を機に、日本と九州の森林政策の抜本的な転換を図らないといけない。

 被災地には、われわれ研究者の常識を超える光景が広がっていた。谷筋の土砂が全て流れ落ち、流木被害のすさまじさには驚くばかりだった。ある住民は「流木同士がぶつかり合うものすごい音が聞こえた」と、恐怖を語った。人々に多くの「恵み」を与えてきた「山」が、これほど恐ろしい存在に変貌する。私たちは決して自然をあなどってはならない。

 今回の災害は、500年に1度の雨が短時間で降り、森林の貯水能力をはるかに超えて起きた。九州の森林はスギを主体とする人工林の比率が高く、被害がひどかった朝倉市杷木地区は9割を超す。このため、流木の大半もスギだった。スギ林が崩落し、一気に流された木々が家を押しつぶし、川を埋めた。住宅をスギの大木が守った場所もあったが、山にスギばかり植えて森の多様性を失わせたことが、被害を拡大させたといえる。

 それでも、今回ほどの豪雨だと、広葉樹林でも崩壊は発生しただろう。木の根が守る土壌は深さ1・6メートルくらいまで。今回は最大で深さ約7メートルの土壌まで崩壊しており、針葉樹でも広葉樹でも、山は崩れた。ただ、広葉樹は針葉樹より比重が重く棒状ではないので、それほど一気には流れない。現地が自然林だったら、被害はある程度抑えられたと考える。

 日本では国策として、戦後復興期の木材需要を背景に針葉樹の植林が奨励されてきた。その後、木材価格の低迷で人工林の荒廃が進行。福岡県は1978年の福岡大渇水を機に「水源の森基金」を創設。間伐を奨励し、健全な人工林の維持に努めてきた。だが、今回の災害は新たな施策の必要性を示した。渓流沿いや谷筋、急傾斜地、岩場などの人工林は、伐採後に自然林に戻すことを提案する。

 ただ、伐採後3年内の植栽義務が課された「保安林」の存在がネックになる。この制度は、明治から昭和30年代までは、はげ山化を回避し土砂災害を防ぐ意味があったが、災害の形態は大きく変わった。流木被害の軽減など「減災」に軸足を置いた森林政策への転換が急務だ。

 温暖化が進む日本で、今回のような豪雨災害はどこかでまた必ず起きる。自然と向き合い、地域コミュニティーをよく知る農林業従事者こそが、地域防災の一番の担い手になっている。農林業で食べていける仕組み作りも必要だ。 (談)

 佐藤 宣子さん 1961年生まれ。九州大大学院修了。大分県きのこ研究指導センター研究員などを経て2007年から現職。NPO法人九州森林ネットワーク理事長も務める。


=2017/09/01付 西日本新聞朝刊=

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