【患者中心の医療へ】 丸山 泉さん

西日本新聞

◆技術革新はばら色か

 テクノロジーの進歩は全てがばら色ではない。使い方によって危うさを伴う。

 一般的な利用が可能となって、わずか30年でインターネットは日常生活必須のツールとなった。有機的な絡み合いがその利点を生む前提であるので、一部の不調が全体への大きな影響を及ぼす。8月には、大手検索会社のネットワークでの誤設定が原因で、国内で大規模な通信障害が発生し、その会社は謝罪した。IT業界の巨人の頭文字をとったGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)は、より強大になり情報管理をさらに独占するだろう。

 用語の整理が必要である。「ICT」とは情報通信技術、ネット検索やクラウドでの情報管理である。「AI」は人工知能。勝負という点では将棋や碁では既に人間に勝っている。「IoT」とは、あらゆるモノに取り付けられた通信機能を持つセンサーがネットを介して情報を収集し処理する。独居の高齢者世帯での安否確認に、その家の冷蔵庫の開閉とかトイレの使用などの頻度を利用する場合もそうである。ICT、AI、IoTは相互に指数関数的に発展し、新たな第4次産業革命と捉えられている。

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 普通の診療の現場でも変化が始まっている。医療画像の遠隔診断、画像処理、医療情報の収集、クラウドによる診療情報の共有、診断補助、事務作業の効率化などである。

 テクノロジーの進歩は医療においても大きな利益とともに、少なくない弊害を生んでいる。技術革新による医療コストの増大と、医療産業の寡占化、新たな医療倫理上の問題、人間中心の医療の置き去りである。

 開発に膨大なテクノロジーの集約を必要とする高額な薬品は、医薬産業の寡占化と表裏の関係にある。ほとんどの先進的医療は莫大(ばくだい)なコストを必要とする。医療の背景にある巨大な産業やシステムの前では、相対的に個人は小さく、見えにくくなる。外来診療で、医師が患者と対峙(たいじ)しないでモニターばかり見ていると最近耳にする。些細(ささい)な例ではあるが何かを予感させる。

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 国際機構である世界経済フォーラムは、第4次産業革命で2020年までに15の主要国・地域で約500万人が職を失うと報告した(16年度版報告書)。団塊世代が全て後期高齢者になり、かつ生産年齢人口が圧倒的に不足する25年からの一定期間をどう乗り切るかを考えると、労働人口の代替機能の強化は必要であり、人としての能力をどこに選択し集中していくのかは避けようのない課題である。

 医師として案じている。日々の診療の中で患者が何を求めているのかを実感すると、率直な疑問を持つのだ。

 患者や家族に必要なものは、医師や、看護師、さまざまな医療関連職とのコミュニケーションの在り方や、対話を通しての心の安寧であり、それは効率や精度を目的とした機械的な診断や治療以前にあるべきものだ。

 患者中心の医療の核心は「一人」である。

 テクノロジーの圧倒的な進歩と、それらによって構築されるシステムと、守るべき微塵(みじん)のような一人という構図に、どう折り合いをつけるかを迫られている。単に医療の問題ではなく、未来に向けての人間性の在り方を問われているのかもしれない。

 進歩の恩恵を受けられない潜在的な集団が知らぬ間に形成されてはいないのか。現状の医療制度や医療職の教育と育成は人間中心の医療を守りきるのか。これらを含んだ、大きな視点での国民的な議論が急がれるが、医療に関わる政策決定の既存システムで、それが果たして可能であるのだろうか。

 【略歴】1949年、福岡県久留米市生まれ。久留米大医学部卒の内科医。福岡県小郡市で医師会活動の後、NPO法人で地域の健康増進活動に取り組む。2012年6月から日本プライマリ・ケア連合学会理事長。父は医師で詩人の丸山豊。


=2017/09/10付 西日本新聞朝刊=

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