戦国時代のアニメ業界でハケンを握るのは誰か?

西日本新聞

 「ハケンアニメ!」というタイトルだが、派遣社員たちの物語ではない。ワンクールで50本近くの作品が作られる戦国時代のアニメ業界で、ファンたちの心を掴み、商業的にも成功した作品のことを「ハケン(覇権)アニメ」と呼び、称賛するのだ。本書はアニメ業界で生きる監督、プロデューサー、アニメーター、声優たちにスポットを当てた熱いドラマである。

 主人公の有科香屋子は、昼も夜も男も女もない過酷なアニメ業界で働いている。女性ではあるが、キャリアを積み今ではプロデューサーとしてアニメ制作を統括する立場だ。彼女には、ずっと温めていた目標があった。アニメ監督の王子千晴といっしょに仕事をすることだった。

 王子千晴。キラキラした名前だが、なんと本名。香屋子よりも3つ年下の32歳だが、今でも学生に見えるイケメン。初監督作品である『光のヨスガ』は社会現象になるほどの大ヒットを記録し、一躍時代の寵児になった。香屋子もアニメ業界に就職して5年目のときに本作を見て、衝撃を受けてしまった。

 そんな香屋子の熱烈アプローチが叶い、王子千晴を監督に迎えて新作アニメの制作が始まった。しかし、このイケメン監督、天才肌ゆえのワガママさで、言動は子供そのもの。煮詰まった挙句に、「失踪」までしてしまう始末。これが憧れていたあの王子千晴とは……胃袋に穴が開きそうな香屋子の心労が、読んでいるこちらにまで伝わってくる。

 それだけではない。イメージ通り、アニメ制作の現場は過酷な修羅場そのもの。アニメーターたちは、何日も会社に寝泊まりして、ひたすら絵を描き続ける。監督から急な修正が入るのも日常茶飯事。それでも黙々と描き続ける職人魂に心が打たれる。

 みんなボロボロになって働いている。だが本書は、それらをこう描写している。「その姿が何とも愛おしく、美しかった。真剣に仕事をする者の姿だ」と。そして、みんなアニメを愛している。その中でも、王子千晴のアニメに対する愛情は深い。本気モードになったときは、まさに時代をも動かす作品を作り上げてしまう。

 だが、ライバルの制作会社も黙ってはいない。気鋭の監督と敏腕プロデューサーが話題作をぶつけてくる。話題作ひしめく今クールで、ハケンを握るのは誰か?ハラハラ、ウルウルしているうちに、あっという間に読み終わっていることだろう。


出版社:マガジンハウス
書名:ハケンアニメ!(文庫版)
著者名:辻村深月
定価(税込):950円
リンク先:https://magazineworld.jp/books/paper/7100/


西日本新聞 読書案内編集部

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