【1強考】「看板」転々内実は 再チャレンジ→1億総活躍→人づくり革命 成果と検証見えにくく

西日本新聞

 福岡市内で暮らす奈美(29)=仮名=が引きこもりになったのは、英国への留学中、ホストファミリーとの人間関係に疲れたのがきっかけだった。

 帰国後、自宅の部屋に3年間閉じこもった。家族と顔を合わせず、風呂に数週間入らない時期もあった。将来への不安を募らせていた2013年、テレビで「サポステ」を知った。

 正式名称は就職支援施設「若者サポートステーション」。厚生労働省の委託事業で、ニートなどの就労や自立を支援する。安倍晋三が最初に首相に就いた06年当時から掲げる「再チャレンジ」支援策の一つだ。

 「背中を押してくれるかも」。奈美は福岡の施設に足を運び、同じ引きこもり経験者と一緒にセミナーを受講した。曲折はあったが昨年末、得意の英語を生かせる職場を見つけた。

 奈美は振り返る。「国の施策があったから勇気をもてたし、就職できた」

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 再チャレンジは、努力した人が報われ、勝ち組と負け組が固定化しない社会を目指すとする安倍のキャッチフレーズだ。首相に返り咲いた12年以降も引き継がれたが、やがて新たな「看板」が登場する。

 「目指すは『1億総活躍』社会であります」

 15年9月、自民党総裁に再選された安倍は記者会見で「1億総活躍」社会の実現を打ち出した。翌10月、厚労省や経済産業省の職員約20人でつくる「1億総活躍推進室」が内閣官房の一角に発足する。

 翌16年6月、閣議決定された「ニッポン1億総活躍プラン」には、「介護離職ゼロ」「名目国内総生産(GDP)600兆円」「希望出生率1・8」といった数値目標が盛り込まれた。サポステも関連事業の一つに位置付けられた。

 それからわずか1年後の今年6月。安倍は突然、新しいキャッチフレーズ「人づくり革命の断行」を打ち出した。森友、加計(かけ)学園問題による支持率低下に悩むさなかのことだった。

 緒に就いたばかりだったはずの1億総活躍プランはどうなったのか。9月末、推進室が設置された内閣官房の職員は申し訳なさそうに語った。「専従の担当者は、もうここにはいないんです」。各省に戻ったという。

 プランの進み具合を点検する「フォローアップ会議」は、5月に1度開催されただけだ。

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 「結局、復活させるのなら、打ち切らなければよかったのに」。福岡サポステを運営するNPO法人「JACFA」代表の浅海道子(74)は首をかしげる。

 高校や専門学校を中退する生徒の就業を支援するサポステの学校連携事業は13年度に始まったが、政府の有識者会議で「ニート予備軍をサポステに誘導し、中退者を増やす」と批判され、2年で廃止された。

 ところが一転、「1億総活躍プラン」では在学中の生徒を支援対象にしない条件を加え、再び盛り込まれた。「引きこもりやニートになりそうな子どもには、退学前からの早期支援が大事なのに」と浅海は言う。

 再チャレンジ、1億総活躍、人づくり革命-。派手に看板を掛け替えながら、内実は似たような政策の焼き直しが目立つ。一定の成果はあるとみられるが、十分に検証されたのか、国民には見えにくい。

 浅海の目には、場当たり的に映る。「現場の実情を分かっているのだろうか」

 =敬称略

=2017/10/02付 西日本新聞朝刊=

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