【1強考】9条を問う(下)首相宿願、民意とずれ

西日本新聞

 憲法論議の主役は誰か。主権者である国民のはずなのだが-。

 衆院選公示を翌日に控えた9日、鹿児島県内で野党候補の後援会が憲法フォーラムを開いた。「憲法は国の形を政治家に示すもの。安倍さんは今の憲法を『みっともない』と言う。改憲して戦争するつもりなんですよ」。約300人を前に候補者が訴えた。

 同時刻、近くで県防衛協会などが主催する改憲派の集会も開かれていた。「戦力も交戦権も持たず、自分の国を守れないようにしているのは異常。9条を変えたら安倍さんが戦争するんですか? しませんよ」。保守派の論客の言葉に、約650人で埋まった会場に拍手が湧き起こった。

 両会場に首相安倍晋三の名が飛び交う。選挙後に改憲勢力が圧倒的多数を占めるとの予測もあるが、公示前の世論調査は「安倍首相の下での改憲に反対」が53・4%に上り、賛成を20ポイント近く上回った。親安倍か、反安倍か。憲法論議とは別の次元で民意が擦れ違う。

 こうした空気を感じたのか、安倍は6日の共同通信インタビューで「(自民党が勝っても)国民の信任は国民投票だ」と明言した。改憲を自民党の公約に盛り込んだ割に、街頭演説ではほとんど触れていない。

 ただ、過去2回の衆院選では経済政策や消費税を争点に掲げながら、選挙後に特定秘密保護法や安全保障関連法の採決を強行した。また今度も…。改憲派集会に参加した60代女性は「改憲には賛成だが、中身は慎重に見ないといけない。過ぎたるは及ばざるがごとしですから」とくぎを刺す。

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 安倍の祖父、岸信介の宿願だった改憲。だからといって、憲法の背骨である9条に触れなければ、真の改憲とは受け止められない。そこに「安倍さん最大の眼目がある」と、福岡大名誉教授の石村善治はみる。

 9条に自衛隊を明記した3項を加える安倍の提案には、党内でさえ「自衛隊にできることは変わらない」など異論は多い。それでも「9条に挑んだ」というインパクトは小さくない。

 一方で憲法が専門の石村は、法解釈では後にできた条文が優先するのが一般的と指摘する。つまり「あの戦争を経て、僕たちが誓った平和主義の理念が空文化しかねない」。戦争を体験した90歳は「戦後日本の大転換点になるかもしれず、しっかり考えて投票してほしい」と心底願う。

 ただ、今回の選挙で問われている改憲課題は9条だけではない。自民党にしても、他に教育無償化、参議院の合区解消、緊急事態対応の3項目を掲げる。改憲を盛り込んだ他党も、情報公開や地方分権を挙げる。

 2人の子を育てる福岡市の30代の母親は「教育無償化は進めてほしいけど、9条とセットで示されると結論を出せなくなる」と戸惑う。それに、安倍が憲法記念日に寄せたビデオメッセージも気にかかる。

 「(東京五輪が開催される2020年を)新しく生まれ変わった日本がしっかりと動きだす年、新しい憲法が施行される年にしたいと強く願う」。なぜ20年か。安倍の党総裁任期と重なる以外、選挙戦では答えが聞こえてこない。

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 18日、鹿児島大で憲法を考える授業があった。今回、改憲勢力が3分の2を超える議席を獲得した場合、国民に改憲が支持されたと思うか-。准教授の渡辺弘(49)は問い掛けた。

 「公約には憲法以外のこともたくさん書いてある。改憲に反対でも、他の公約に賛成して投票する人もいる」「候補者で選ぶので、必ずしも国民の意見が反映されたとはいえない」…。学生たちは考えた末、それぞれ自分の意見を述べた。

 渡辺自身はこう考える。「改憲を争点に総選挙で選択するのには限界がある。少なくとも期限を区切って議論するものではないはずだ」。選挙後、民意と議席数のずれは、さらに大きくなるかもしれない。憲法論議の主役である国民とどう向き合っていくのか。候補者の姿勢を見極める日が近づいている。 =敬称略

=2017/10/19付 西日本新聞朝刊=

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