牛乳の風味、どうして変わる 餌、体調、季節によって 命をいただいている証し

西日本新聞

 牛乳を飲んだわが子が「変な味がする」と訴えたとしたら、どう答えるだろうか。「おなかを壊すといけないから捨てなさい」とすぐさま処分させる人もいるかもしれない。しかし、ちょっと待ってほしい。

 10月中旬、福岡県内3市の小中学校計約10校の子どもたちが、給食の牛乳について「豆乳のような味がする」と訴えたという。福岡市など、この3市を含む約260校に日々、提供している永利(ながとし)牛乳(太宰府市)に各市教育委員会や学校から連絡が入った。同社は「牛乳の味は日々変わるもので、通常の変化の範囲です」と説明したという。

 学校給食での牛乳の「異臭騒ぎ」は6月には茨城県、9月にも東京都と埼玉県であった。茨城では約60校で「味が薄い」などの声が上がり、約640人が体調不良を訴えた。新宿、板橋両区では約1900人が「においや味が変だ」と訴えたという。

 原因について茨城県は「メーカーは通常、風味が安定するように複数の農場の原料乳を混ぜて使っていたが、このときは一つの農場の原料乳を使用したことから、風味の違いが出た」と発表。衛生上の問題はなく、児童らが体調不良を訴えた点については「味の違いを強く感じ取ったことで体調の異変につながった可能性はある」と説明した。

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 牛乳の味は季節によっても、餌や牛の体調でも変わる。永利牛乳の長谷川章子専務によると、牛乳はもともと餌のにおいが移りやすい。牧場の青草が豊富な5、6月には青草の風味が出ることがある。暑い夏を過ごした乳牛の体調が落ちる秋口には、消化器官の機能が低下し餌を十分消化しきれず特定の成分が増減する場合もある。「豆乳のような味」は餌の大豆かすによる影響が考えられるという。関東の事例が発生したのが6月と9月というのも合点がいく。

 永利牛乳には2003年にも同じような苦情が寄せられた。このときは普段使っていない生産者の原料乳が入ったことが原因という。成分を分析する機器でも飼料由来を示すデータは確認できなかった。出荷前には担当社員が口に含んで風味に異常がないかを調べる官能検査を実施していた。それでも、分からないごくわずかな違いを察知する子どもたちの敏感な感覚に驚かされるが、動物である牛が出す乳は変化することがある、という事実も同時に知っていてほしいと思う。

 同社はこうした経緯も踏まえて15年に「酪農をもっと知ってほしい」と牧場に見学施設を開設、年間3千~4千人の見学者を受け入れている。

 「異臭騒ぎ」にはメディアも反省するべきところがある。子どもは「いつもと違う味」と指摘しただけかもしれないのに短絡的に「異臭」と捉え、表現してはいないか。見出しになれば、そのマイナスイメージを読者に植え付けてしまう。的確な判断が求められる。

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 本紙生活面で「夢の種をまく-福岡県農業大学校より」を連載している川口進校長は、県の農業改良普及員時代、農場見学に訪れた母親から「乳牛って(雄も)みんな牛乳を出すと思ってた」と言われて驚き、乳を出すのは出産後の雌で、牛乳はいわば「子牛から横取りした母乳」だと説明しなければならなかったエピソードを紹介している。動物をはじめあらゆる命の犠牲によって暮らしが成り立っていることに、私たちはもっと思いを巡らしても良いのではないだろうか。

 福岡県筑後農林事務所の今村和彦所長は指摘する。「牛乳は工業製品ではありません。当然、味のずれはある。微妙に変化するのが命をいただくということです」

 最初の変な味の牛乳についての問いに戻る。確かな味覚と嗅覚、牛乳の知識を得た上で吟味し「大丈夫、これは味が少し違うだけ」と説明できる大人になりたい。


=2017/11/01付 西日本新聞朝刊=

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