【夫婦で対話のデザインを】 松田 美幸さん

西日本新聞

松田美幸(まつだ・みゆき)さん=福岡県男女共同参画センター「あすばる」センター長 拡大

松田美幸(まつだ・みゆき)さん=福岡県男女共同参画センター「あすばる」センター長

◆新しい形の家族支援

 人生100年時代にふさわしいサイコロを見つけた。福岡県うきは市の木工屋さんが考案したこのサイコロを振ると「20年後はどうありたいか」といった、人生を考えるお題が現れる。現状を打破したいときに使うのもいいし、大切な人と将来設計を話し合うきっかけにも使える。この人生サイコロが気になったのも、最近、「夫婦会議」や「夫婦合宿」という言葉が頻繁に話題に上るからだ。

 福岡在住の若い友人が、自身の離婚危機を経て、夫婦の対話支援を事業として起業した。二人とも、子どもが生まれる前は仕事中心の生活だった。出産後、妻の生活は育児中心になる一方、サラリーマンの夫は深夜帰りが続き、産後クライシスを迎える。週に何回かわが子の湯あみや遊び相手をして努力したつもりの夫と、思うように仕事に向かえずいら立ちが募る妻。お互いに大切なことを話し合っていなかったことに気づく。

 彼らがたどり着いたのは「夫婦は世帯の共同経営者」という考え方。企業や組織に経営理念やビジョンがあるように、夫婦や家族も目指す理念やビジョンを共有するところから始めることが大切だと、対話型の「夫婦会議」の普及に取り組んでいる。

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 「夫婦会議」と聞くと構えてしまうかもしれないが、定期的に実践している人たちのやり方は、対話のデザインの基本と変わらない。お互いを尊重し、対等に話し合うための工夫は、夫婦や親子といった身近な人との対話により効果を発揮するように思う。

 まず、場所を家の外に移し、お気に入りのカフェなどに出かけるとリラックスできるし、周囲の目もあって感情的にならず話せるようだ。お互いのキャリアプラン、ご近所づきあい、親の介護など、共同経営者としてじっくり話したいテーマを日頃からリストにしておく。時には人生サイコロを振り、1年以内に実現したいこと、10年後の自分たち-といったお題にするのもいい。話しだす前に、相手に伝えたいことをノートや付箋に書き出すと、気持ちの整理にもなるし、交互に話すルールも実践しやすくなる。

 泊まり込みで旅行に出かける「夫婦合宿」では、非日常の空間と時間に身を置いて人生計画の進み具合を振り返り、節目には夫婦や家族のビジョンを見直す。共同経営者として、年に1~2回、あるいは四半期に1回実行している夫婦もいるようだ。

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 私が講演で訪れた先で、「夫は私の名前を知らないかもしれない」といった話をする中高年の女性に何人も会った。「飯、風呂、寝る」しか言わない夫との間に、対話どころか会話もなかった世代に「夫婦会議」のススメがあれば、彼女たちの人生は変わっていたかもしれないと思う。

 残念なことに、今の若い世代でも、状況はそれほど変わっていない。仕事と育児・家事との両立で疲弊している「ワンオペ育児ママ」がつらいのは、一番分かってほしい夫に、その苦悩を理解してもらえないこと。夫にしてみれば、責められるだけの話し合いは気が進まない。良質な対話を生むもう一つの鍵は、未来に向けて話すことだ。

 人生100年時代には、人生の最大の資源である時間をどう使うか、誰とどう過ごすかをマネジメントすることが今まで以上に大切になってくる。つまりは、一人一人が自分の人生の経営者になることだ。そして家族を持つということは、「私の人生」だけでなく、「私たちの人生」の共同経営者にもなることだと、前述の若い起業家夫妻から教えてもらった。よりよい共同経営者になるための対話トレーニングは、新しい形の家族支援になるかもしれない。

 【略歴】1958年、三重県津市生まれ。三重大教育学部卒、米イリノイ大経営学修士(MBA)。今年6月から現職。福岡女子大の学長特別補佐、福岡地域戦略推進会議シニアフェロー、OCHIホールディングス(株)社外取締役も務める。


=2017/12/03付 西日本新聞朝刊=

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