320万部突破の人気コミック原作者が放つ、哲学に満ちたファンタジー小説

西日本新聞

 SFの名作として知られる「ブレードランナー」では、レプリカントと呼ばれる人造人間と人間との戦いが描かれている。その中で、人間に反逆したレプリカントの処刑という任を負う主人公は、「人間とレプリカントの違いは何なのか?」と葛藤する。何が人間を人間たらしめているのか。人間とは一体何なのだろうか。そんな命題を含んでいる。

 その命題にひとつの答えを出すのが、本書『魔女と魔王』だ。「黄金の魔女王」と呼ばれる美しき最強の魔女が、太古の昔から絶望に支配されたはるか未来まで時空を行き来し、自らの犯した罪の償いをしようとする冒険ファンタジー。同じ世界観で描かれる『少年と老婆』の続編にあたり、作者は累計320万部を突破した『奴隷区−僕と23人の奴隷−』シリーズの原作を手がけた岡田伸一氏だ。魔女王は流産させてしまった恩人夫婦の子「迷子の魔王」を救うため、数々の神秘を操り、時に彼女を食らおうとする強大な敵と戦いながら奔走する。

 本書は読み易くて展開も派手であることから、一見、ジュブナイル小説に見えるかもしれない。その為、本格派ミステリなどを読み慣れている読者には物足りないかもしれない。だが、その根底にあるのは紛れもなく哲学だ。人間が人間である為にはどうすればよいかという問い。選択し続けることの重さと残酷さ。逆境に一人抗おうとする者のりんとした美しさ。

 特に、本書では「対話」を重んじる姿勢が一貫して描かれている。二部である「女の国、男の国、獣の森」に登場する賢人「涙屋」は、主人公の青年に対して次のように語る。「人とよく語り、考えることが答えへの近道です」。「涙屋」が青年や王との対話を通じて諭す様は、まるでソクラテスが問答法によって弟子達を導くようだ。

 また、『魔女と魔王』には、生粋の悪人が存在しない。黄金の魔女王やそれに連なる人々と敵対する暗黒の魔呪王、そして残虐な砂漠の大国の王は、心の内に絶望と哀しみを秘めている。窮地に陥っても誰一人手を差し伸べてくれない孤独や身内に対する激しい劣等感。それは誰にでも等しく覚えのあるものではないだろうか。

 だからこそ、本書にはライトなファンタジー小説にとどまらない魅力がある。いわば、冒険ファンタジーの形をした哲学書とでも呼ぼうか。酸いも甘いもかみ分けた大人であればあるほど、新鮮な驚きに胸打たれる本だろう。


出版社:潮出版社
書名:魔女と魔王
著者名:岡田伸一
定価(税込):1,728円
税別価格:1,620円

西日本新聞 読書案内編集部

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