【「次世代再生力」でみる世界】 藻谷 浩介さん

西日本新聞

藻谷浩介(もたに・こうすけ)さん=日本総合研究所調査部主席研究員 拡大

藻谷浩介(もたに・こうすけ)さん=日本総合研究所調査部主席研究員

◆先進国でも屈指の九州

 「最近の人は、何かにつけ、今だけ、金だけ、自分だけだ」と慨嘆したのは、300年近く前の18世紀初頭に大阪で石門心学を拓(ひら)いた石田梅岩だと聞く。だがこの言は、21世紀初頭の今の日本の世相を表すのにも、そのまま使えないだろうか。

 何よりここのところ、話題が目先のことばかりに集中し過ぎていないか。年末恒例の今年の漢字が「北」と発表されたが、今年はそんな局所的な、刹那的な話題しかなかっただろうか? トランプは、中国は、ブレグジットは、シリアは、景気はどうなったのか。

 「人間は昔からそんなものだ」という論評もできるだろう。だが実は、18世紀初頭と今現在の21世紀初頭の日本には、大きな共通点がある。両方とも、それまで150年間ほど激増を続けた人口が、急に横ばいになった時期なのだ。戦国末期の1千万人が3千万人まで増えた後に、突然限界に達したように伸び止まったのが、18世紀初頭。幕末の3千万人が1億3千万人近くまで増えた後に、ついに減少に転じたのが今なのである。

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 個人個人は多様であり、自身に子どもがいてもおよそ次世代のことなど考えていそうにない人もいれば、子どもはいないが常に未来を思っている人もいる。だが社会全体の風潮としては、次世代が育っていないことを感じれば感じるほど、「今だけ、金だけ、自分だけ」に走る傾向が強まるのではないだろうかと、筆者は感じている。

 だが、子どもが減っているのはもはや日本だけではない。「世界の人口は爆発的に増えている」というようなニュースを聞くと、日本だけが世界から置き去りにされているような気になるかもしれないが、それは誤解だ。日本は世界に置き去りにされているのではなく、逆に世界を置き去りにして少々先に進んでいたのだが、いまや他の経済先進地域も、続々と日本を追いかけ始めているのである。

 以下は、国際連合人口部作成の2015年版の推計を基にした比較だ。25~39歳の人口を3で割って0~4歳の数と比較し、これが100対100なら、子育て適齢期の世代が同数の次世代を産んでいると仮定し、下の方の数字を「次世代再生力」と呼ぶこととする。

 2015年の日本は100対68と次世代再生力が弱いが、韓国は63となお深刻になり、台湾では53と一世代で人口が半減する数字になっている。中国も77と少子化傾向が明確だ。シンガポールは68で日本と同水準だし、米国も91と100を切り、もっと移民の多いカナダは79である。誤解されがちだが、移民は少子化を解決しない。

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 であるからこそ筆者は、2015年国勢調査にみる沖縄県の次世代再生力が、米国を上回る93であるという事実に強く感銘を受ける(以下、年齢未回答者数を、回答者数の年齢比で案分して計算)。九州でも鹿児島の84を筆頭に、宮崎・熊本・長崎・佐賀が80台だ。大分は75だが全国では12位、福岡市の低出生率に足を引っ張られて74の福岡も全国では17位と、国内では九州・沖縄の健闘ぶりが突出する。これに対して東京都は55。上京した若者2人当たり子どもが1人強しか生まれない、まさに人口を消滅させるブラックホールのような状況だ。

 このように先進国の中では屈指の「次世代再生力」を残す九州では、「今だけ、金だけ、自分だけ」ではない、自分の子だけでなく次世代全体のことを思う人が、関門海峡の東よりも多く残っているのだろうか? そう願いつつ、来年もより多くのクリスマスベイビーが生を受けることを祈りたい。

 【略歴】1964年、山口県徳山市(現周南市)生まれ。88年東京大法学部卒、日本開発銀行(現日本政策投資銀行)入行。米コロンビア大経営大学院で経営学修士(MBA)取得。2012年1月から現職。著書に「デフレの正体」「里山資本主義」など。


=2017/12/17付 西日本新聞朝刊=

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