無戸籍者 人権回復へ幅広く救済を

西日本新聞

 親の事情で出生届が出されず、戸籍がないまま暮らす人がいる。

 戸籍がなければ、原則として住民票やパスポートを取得できず、社会生活でさまざまな不利益を被る。義務教育を受けられない例すらあるという。基本的人権に関わる深刻な問題である。

 法務省の2014年以降の調査によれば、今月10日までに確認された無戸籍者は1550人に上る。このうち、戸籍を取得し問題を解消できたのは829人で、残る721人は戸籍がないままだ。

 無戸籍の8割近くは両親の離婚に伴い、母親が出生届を出さなかった事例という。婚姻中に妊娠した子は「夫の子」とする嫡出推定(民法772条)に起因する。

 例えば、30代の無戸籍の女性は、夫の暴力から逃れた母親と別の男性の間に生まれた。母親は民法の規定で夫が父親になることを避けるため出生届を出さず、その後離婚が成立した。

 裁判所は母親と夫は既に離婚状態にあったことから「嫡出推定を受けない」として、女性が求めた戸籍取得を支持した。女性は記者会見で「長かった。やっと国民になれた。堂々と生きたい」と話した。心の底からの実感だろう。

 嫡出推定の規定は、扶養義務を負う父親を早期に確定させ、子どもの権利を守るのが目的だ。ところが、社会環境や家族観の変化とともに、結果として無戸籍を助長する一因となっている。

 戸籍取得は、裁判による親子関係の不存在確認などを経て初めて可能となる。

 法務省は先月下旬、無戸籍者をなくすための裁判支援など対策を打ち出した。それでも、法廷での訴えとなれば、費用負担の問題を含め尻込みする人もいるだろう。

 根本的には法改正が必要だろうが、民法の弾力的な解釈や運用で改善できることもあるのではないか。無戸籍者は1万人を超えるという民間団体の推計もある。

 言うまでもなく、生まれてきた子どもには何の責任もない。戸籍のない人を救済する手だてを社会全体で考えたい。


=2017/12/22付 西日本新聞朝刊=

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