五島「危機」に揺れる 「防衛協会」元会長と「九条の会」事務局長に聞く 陸自誘致→「抑止強化」「狙われる」 憲法改正→「考える時」「理念大切」

西日本新聞

台風の影響で緊急避難した外国漁船で埋まる玉之浦港=2012年7月 拡大

台風の影響で緊急避難した外国漁船で埋まる玉之浦港=2012年7月

「五島九条の会」が主催した安全保障関連法案をテーマにした講演会=2015年 陸上自衛隊誘致の意義を語る才津為夫さん

 北朝鮮のミサイル発射などで国際情勢が緊迫化する中、各地の国境の島が「危機」に揺れている。航空自衛隊分屯基地がある五島。市が陸上自衛隊の誘致を掲げ、議会や市民にも「抑止力強化」に理解の声が上がる。一方で、強まる危機ムードに「あおりすぎ」と違和感を覚える人もいる。双方の島民の思いを聞いた。

 市として陸自誘致を初めて打ち出したのは昨年6月。野口市太郎市長らが上京し、防衛省に要望した。

 「国境離島は、常に危険に脅かされてきた」。福江商工会議所顧問で、「五島市防衛協会」会長を約20年にわたり務めた才津為夫さん(90)は、不安は続いてきたと強調する。

 五島周辺海域では外国船の違法操業が相次いでいたという。2012年夏、同市玉之浦港が台風接近で緊急避難してきた100隻以上の外国漁船で埋め尽くされた。「当時、近海はそれだけ外国漁船に占拠されていたのではないか」。15年には「国境の島(五島福江島)に陸上自衛隊を誘致し離島防備と島の活性化を図る有志の会」を設立。同年12月定例会に約7千人の署名とともに請願を提出し、採択された。

 市内には、護憲を掲げる「五島九条の会」がある。才津さんらが陸自誘致に動きだした15年には、当時国会内外で議論が紛糾していた安全保障関連法に関する講演を開催。その後も勉強会を行うなどしてきた。だが足元の島の雰囲気は、危機への対応強化を求める色合いが強い。

 「外国の脅威は確かに怖いとは思う」。九条の会事務局長の長門悦子さん(71)は漏らす。一方で、一斉に強まる陸自誘致の動きには「だからといってこっちが軍備を増強すれば、それで解決するのか」と不安に思う。むしろ「狙われる危険性が大きくなるだけではないか」とも。

 才津さんにしてみれば、陸自誘致を求める原点は、戦争の惨劇を目の当たりにした自身の体験にある。太平洋戦争中、旧制諫早中でグライダーの訓練指導を担った。1945年8月9日、少しの閃光(せんこう)と振動を感じた。諫早駅に行くと長崎から汽車で運ばれてくる負傷者たちを見た。服が焼け焦げ誰もが大やけどを負っていた。数日後、新型爆弾が落とされたことを知った。

 「戦争は絶対にあってはならないもの。戦争に反対だからこそ、外国の脅威に対して自国を守る抑止力の強化が大事になる」

 有志の会は10月、政府が導入を決めた地上配備型の迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」について、五島への配備を求める署名集めも始めた。

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 安倍政権は今後、9条など改憲を目指す動きを強めるとみられる。

 才津さんは「平和憲法」をどう見ているのか。「生まれてからずっと戦争だったので、この憲法で平和な世の中になると思うとうれしくなった」と振り返る。

 だが、世界からいまだ紛争は絶えず、日本の危機は強まっているように感じる。「平和主義という理想の憲法ではあるが、軍事強化している諸外国から国民の安全を守ることができないのでは、という心配がある」。自衛隊を9条に明記する案については「憲法も時代に合わせて考える時期に来ているのではないか。自分の国は自分で守るという原点に立つことが重要だ」

 一方の「九条の会」の長門さん。「日本が72年間平和で来たのは憲法があったからこそで、いじる必要はない」と言い切る。

 「軍備に軍備で対抗すれば、その先には必ず争いが来る。話し合いで解決する9条、憲法の精神、理念が今こそ大切なのではないか」

 才津さんら陸自などの誘致を求める側は、人口減が続く島の地域振興を誘致の理由に挙げるが、長門さんはこれにも違和感を覚える。「(誘致で)島は暮らしやすくなるのか」という疑問だ。「地域を振興して元気にするには、若い人たちが本当に暮らしやすくなる地道な振興策を考えることが重要だと思う」と語る。

=2017/12/23付 西日本新聞朝刊=

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