信念貫く人々描いた 故葉室麟さん 九州足場に歴史向き合い

西日本新聞

 【評伝】命の残り時間を考えたことはありますか-。葉室麟さんにそう問われた時、私はまだ30歳そこそこだった。直木賞受賞から数カ月後、東京の酒場だった。答えに詰まっていると、葉室さんは言った。「私はどうしても、考えますよ。だから、棚に本を並べたとき、これだけ幅があると、分かってもらえるように書いている」。古代から近代、歴史物も時代物も縦横に、ハイペースで世に送り出す理由を、そう説明していた。

 デビューから13年目で、60冊近く刊行された。でも今年、ずっと敬愛してきた司馬遼太郎賞を受けて「これから自分の仕事ができる」と先を見据えた途端に幕切れが来るなんて、本人が一番悔しがっているはずだ。

 直木賞受賞作「蜩(ひぐらし)ノ記」で、10年後の切腹を定められながらも、真摯(しんし)に家譜を編さんし、農民たちに心を配る元郡奉行・戸田は、記録作家上野英信さんの姿も重なっている。大学時代、葉室さんは一度だけ筑豊の上野さんを訪ねた。そのたたずまいを胸に刻み、上野さんのように時代の闇に埋もれた者の、人間としての尊厳に光を当てようと地方紙記者となった。その後、志半ばで新聞が廃刊し、葉室さんは小説という形で「記者の仕事」を続けた。

 「蜩ノ記」をはじめとする時代小説では、苛酷(かこく)な運命を前に自らの信念を貫いて生きる人々を描いた。歴史小説では、儒学者広瀬淡窓兄弟を描いた「霖雨(りんう)」、黒田騒動の真相に迫る「鬼神の如(ごと)く」など地元九州を中心に歴史をひもとき、立花宗茂・〓千代(ぎんちよ)夫妻が主人公の「無双の花」などしんの強い女性像でも読者を魅了した。

 11月に発売された「大獄 西郷青嵐(せいらん)賦」は新たな西郷隆盛像を打ち立てようと、彼の青年期に焦点を当てた。「彼を通して、明治維新とは何だったのか問い直したい」。それは、今の日本に警鐘を投げかける、葉室さんの「これからの仕事」の幕開けのはずだった。続編も準備していたのだ。

 「必ず復活します」。携帯電話に残るショートメッセージを見つめ、今、途方に暮れている。 (大矢和世)

   ◇    ◇

九州ゆかりの作家仲間ら「チームメイト失った」

 葉室麟さんの突然の訃報を受け、親交があった九州ゆかりの人々は肩を落とした。

 福岡県八女市出身の作家、安部龍太郎さん(62)は「一人の人間に焦点を当て、歴史の荒波の中でどう歩んでいくのかを書いてきた作家。優しさ、視野の広さ、人間を見つめる温かい目。記者時代に培った知識、批判精神もあった」と声を絞り出した。同郷で、共に直木賞作家。最近は2人の仕事場がある京都で会う機会もあり、「チームメートを失ったような感じです」と涙ながらに語った。

 直木賞作家の東山彰良さん(49)=福岡県小郡市=は「正しいことは何かを真摯に考える作家だった。好奇心も尽きず、まだまだ書きたいことがあったはず」。初の時代小説を執筆する際、「自分が思うように臆せず書いていけばいい」と葉室さんの言葉に勇気づけられた。同じ西南学院大出身で自宅も近く、しばしば酒席を共に。「分野が違うからこそ作品を離れて屈託なく付き合えた」と語った。

 40年来の付き合いがある同県久留米市の小料理店「小鳥」には葉室さんの著作が多数並ぶ。オーナーの横尾ミチ子さん(71)は「思慮深い方だった。著書に人柄が出ている。一人でも多くの人に読んでほしいという思いは、これからも変わらない」と話した。

※〓は「もんがまえ」に「言」

=2017/12/24付 西日本新聞朝刊=

PR

社会 アクセスランキング

PR

注目のテーマ