子ども向けとはいえ、人と動物の知恵比べについつい引き込まれる…

西日本新聞

 子ども向けとはいえ、人と動物の知恵比べについつい引き込まれる。児童文学作家、椋鳩十(むくはとじゅう)さんの代表作「大造じいさんとガン」。小学国語の教科書にも採用されたので、ご存じの向きも多かろう

▼ざっと粗筋を。大造じいさんは沼地に飛来するガンの群れを狙う狩人。「残雪」という利口なガンのリーダーは度々、大造じいさんの裏をかいてわなを逃れる

▼ある年、大造じいさんが使ったおとりのガンをハヤブサから助けようとして残雪はけがを負う。大造じいさんは、仲間を守るリーダーの姿に感じ入り、けがの手当てをして放してやる。飛び立つ残雪に声を掛けた。「おれたちはまた堂々とたたかおうじゃないか」

▼印象に残るラストシーンだが、批判された時期もあった。作品が発表されたのは戦時下の1941年。「お国のために堂々と戦い命をささげよ」と子どもたちに教え戦場に駆り立てるものではなかったか、と

▼改めて読み返すと、物語の「堂々と」は、自然の中で生きる人と動物が対等に向き合うことであり、生命の尊厳すら感じさせる。命が軽んじられ、表現の自由も奪われた時代だった。椋さんは動物に託して命の重みを訴えたかったのだろう

▼数々の動物小説の名作を残した椋さんは長野県出身。大学卒業後、鹿児島で教師となり、県立図書館長などを務めた。椋さんが土地と人情にほれ込んだ鹿児島で亡くなってから、きょうで30年。


=2017/12/27付 西日本新聞朝刊=

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