「慰安婦」再燃の火種 日韓合意検証報告書

西日本新聞

 旧日本軍の従軍慰安婦問題を巡る2015年末の日韓合意の経緯などを検証していた韓国外務省の作業部会が27日、朴槿恵(パククネ)前政権が推進した交渉や内容に「ノー」を突き付けた。韓国側は「検証結果と政府対応とは直結しない」(康京和(カンギョンファ)外相)との立場だが、元慰安婦の支援団体は合意の「即刻破棄」を要求。7割が合意に批判的な韓国世論もさらに勢いづくのは必至だ。日本が合意内容の着実な履行を求める立場を変えることはなく、韓国政府は難しい判断を迫られそうだ。

■韓国 朴前政権批判しガス抜き

 「合意交渉には被害者の声が十分に反映されなかった」-。27日午後、ソウルの韓国外務省で会見した作業部会委員長の呉泰奎(オテギュ)氏が語気を強めた。

 交渉は日韓国交正常化50年の節目に当たる15年内の合意を目指し、谷内(やち)正太郎国家安全保障局長と李丙〓(イビョンギ)国家情報院長との間で本格的に進められた。この間、韓国政府は元慰安婦らに、合意文に盛り込まれた「最終的かつ不可逆的な解決」「国際社会で(日韓が)互いに非難・批判しない」との核心的な内容を伝えず、支援金の金額も具体的に示さなかったという。

 慰安婦問題を所管する女性家族省も27日、日韓合意に基づく韓国の「和解・癒やし財団」に関する調査結果を公表。財団関係者が元慰安婦らに「合意の肯定的な面ばかりアピールし、支援金の受け取りを迫った」などと指摘した。

 慰安婦問題に関わる外務省、女性家族省のいずれも日韓合意の経緯や活動内容を批判する展開だが、文在寅(ムンジェイン)政権が合意の破棄や見直しを日本に求めるのは「ハードルが高い」(日韓外交筋)との見方が多い。むしろ、約5カ月かけた外務省の検証作業は、被害者の頭越しとの批判が強い世論の“ガス抜き”を図り、軟着陸したいとの狙いもうかがえる。

 朴前政権を批判する世論に乗って政権を奪った文氏にとって、日韓合意の問題点を明確化する手続きは不可避。だが、5月の大統領選まで日韓合意の「再交渉」を訴えた文氏は当選後、具体的な言及を避けている。核・ミサイル開発を積極化する北朝鮮対策で日本との連携強化が求められているほか、来年2月の平昌冬季五輪に安倍晋三首相の出席を要請しているためだ。

 文政権は、慰安婦問題で日本を刺激しないよう、合意に対する政府判断を五輪以降まで先延ばしする方針とみられる。大統領官邸関係者は「五輪は関係なく、十分に議論する必要がある」と、さらに時間がかかる可能性も示唆した。

 韓国政府は検証結果を踏まえ、元慰安婦らとの個別面談に入る。元慰安婦の7割以上は日本政府が拠出した10億円からの現金を既に受け取ったり、受け取る意向を示したりしている。こうした実績を基に、専門家は「政府は過半数の元慰安婦から合意への賛同を取り付けられると読んでいるのではないか」とみる。だが、交渉の経緯も財団の活動内容も厳しく批判した検証結果を聞いて、元慰安婦らから再交渉を求める声が強まる恐れもあり、先行きは不透明だ。 (ソウル曽山茂志)

■日本 「過程問題なし」履行要求

 韓国外務省作業部会の検証報告書発表を受け、河野太郎外相は27日、「合意は日韓両政府において正当な交渉過程を経てなされたものであり、合意に至る過程に問題があったとは考えられない」と反論する談話を発表した。

 河野氏は談話で「日韓合意は両政府間の合意であるとともに、国際社会からも高く評価されたものだ。韓国政府が報告書に基づいて合意を変更しようとするのであれば、日韓関係がマネージ不能となり、断じて受け入れられない」と韓国側をけん制した。

 菅義偉官房長官も記者会見で「政府としては引き続き、韓国側に対して粘り強く、ありとあらゆる機会に合意の着実な実施を強く求めていきたい」と語った。

 韓国側は、来年2月の平昌冬季五輪への安倍晋三首相の出席を要請しているが、菅氏は「国会日程などさまざまな事情を踏まえて検討する」と述べるにとどめた。政府高官は「こういうのは環境づくりが大事だ」として、韓国の日韓合意への対応が首相出席の判断に影響することを示唆。韓国側は対応を五輪後に先送りする見通しだが、政府内には「時間稼ぎだ」との見方が広がっている。

 慰安婦問題を巡っては、日韓合意の趣旨に反して韓国内外で少女像を設置する動きも相次いでおり、政府内には韓国への不信感が高まっている。別の政府高官は「こうなることが予想できたから、合意の際に『不可逆的』という文言をあえて入れた。もう終わった問題だ」と不快感を示す。

■「挺対協を説得」裏合意表面化 「即刻破棄を」反発噴出

 韓国外務省の作業部会が従軍慰安婦問題を巡る日韓合意の検証結果を発表した27日、韓国国内では元慰安婦の支援団体などが、合意の無効化を改めて求めた。一方、韓国政府が合意内容を尊重しなければ日本側も交渉に応じず、問題解決につながらないとの声も一部にあった。

 元慰安婦支援団体「韓国挺身(ていしん)隊問題対策協議会(挺対協)」はソウルで緊急会見を開き「朴槿恵前政権が、被害者の理解と同意を得ないままに踏み切ったのが分かった」と、日韓合意の即刻破棄を訴えた。

 ソウルでの集会には挺対協の尹美香(ユンミヒャン)常任代表ら約40人が参加。朴前政権が日本の要請に応じ、挺対協の説得に当たるなどの“裏合意”があった点を批判。「われわれが疑ってきた問題が事実と判明した」と語気を強めた。

 日韓合意から1年後に少女像が設置された釜山市の日本総領事館近くでも、少女像の保護運動を進める市民団体が集会を開いた。参加した就職活動中の男性(26)は、合意の問題点を指摘した検証結果を歓迎したものの「文在寅大統領の就任後、今日まで時間がかかりすぎ。選挙公約で合意の破棄、再交渉を掲げていたが、本当にできるのか」と不安も口にした。

 釜山外国語大の李江山(イガンサン)さん(26)も「被害者を中心に置いた検証結果」と受け止めた。同大では、お茶の水女子大とテレビ会議システムで、歴史認識の隔たりを埋める交流授業を続けている。「報告書は前政権を批判しただけ。日本政府は謝罪の意思を示し続ける、韓国政府は政府間で決めた合意を尊重する。その両方がないと新たな交渉は進まず、問題は改善しないだろう」と述べた。

 釜山にある東西大の張済国(チャンジェグク)総長(国際政治)は「今回の検証で『合意はおかしかった』との韓国世論は強まり、解決は難しくなるはず。文大統領は被害者の声を尊重する構えだが、一方で北朝鮮の核ミサイル問題など韓日の協力が不可欠な情勢だ。合意を受け継ぐのか、それとも別の枠組みを提示するのかが問われる」と話した。(釜山・竹次稔、ソウル曽山茂志)

※〓は「おうへん」に「其」

=2017/12/28付 西日本新聞朝刊=

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