「奇跡のような出会い」亡き妻がつなぐ縁 渡りチョウ、900キロ離れた地で

西日本新聞

 渡りチョウ「アサギマダラ」の飛行ルートを調べている福岡県香春町の田中操さん(76)が、亡き妻邦子さん(享年72)の命日の24日、仏前に今年の成果を報告した。自宅で捕獲した1匹が11月、約900キロ離れた沖縄県久米島で再捕獲された。「見つけたのは彼だったよ」。石川県の尾張勝也さん(56)。4年前、尾張さんが放した個体を生前の邦子さんが再捕獲しており、不思議な縁を感じた。

 アサギマダラは日本や台湾に生息する。春に北上し、秋に南下する。詳しい生態は分かっておらず、愛好家や研究者が捕獲した個体に油性ペンで日付や場所を記して放し、再びどこかで捕獲された時に移動距離などを調べる。田中さんの目印は、香春町の「カワ」と名前の頭文字だ。

 田中さん夫妻は2009年に調査を始めた。若い頃から難しい病気を抱えてきた夫を邦子さんが支えたが、その邦子さんもがんを発症。アサギマダラは2人の生きる喜びになった。13年に妻が亡くなった後は1人で調査を続けた。思い出すのは春、2人で北上するチョウを待った勝浦浜(福岡県福津市)での時間。「130円の缶コーヒーで体を温めたんよ」

 11月14日、田中さんが10月に放した個体が、久米島で再捕獲された。見つけた尾張さんは、毎秋、石川県で捕獲した個体をバイクで追う。今年、久米島に渡った調査の最終日、沖縄本島へ戻るフェリーの出航直前、飛来した2、3匹の中に「10・26、カワ、M・T、99」と記されたアサギマダラを見つけたという。

 尾張さんは13年10月、石川県で放した個体を邦子さんが見つけた縁で、香春町に夫妻を訪ねて来た。当時、邦子さんは末期がん。尾張さんは、その最晩年を知る一人になった。

 今年、アサギマダラがつないだ縁を感じた出来事が、もう一つあった。2月下旬、台湾からの国際電話。14年6月に「飛べ亡き妻の思い乗せ」と記事に書いてくれた西日本新聞台北支局長の中川博之記者からだった。「(田中さんが放った個体が)沖縄まで飛来したら見に行くけん」。けれど、久米島での再捕獲の知らせを聞くことなく、9月、中川記者は交通事故で亡くなった。享年48と聞いた。

 妻、そして中川記者。再捕獲の知らせに喜ぶ一方、報告したかった人がいない。「人間の一生は本当に分からん」。ただ、アサギマダラは風雨で羽がボロボロになっても海を渡る。この縁もきっと、必死で運んでくれたに違いない。

 邦子さんと植えた自宅のフジバカマには毎年、秋の10日間だけアサギマダラが羽休めに来る。「来年も、再来年も、奇跡のような出会いを運んできてくれると信じて、気長に待ちたい」

=2017/12/30付 西日本新聞朝刊=

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