審査の限界付け入る?高齢者療養費不適切受給 「出張料を水増し申請」 元従業員告発、署名「認知症の人選ぶ」

西日本新聞

 高齢者宅や施設への訪問マッサージ事業を巡り、不適切な療養費受給が指摘された福岡市の事業者について、複数の元従業員が西日本新聞の取材に「訪問回数を水増しして出張料を稼いでいた」と証言した。認知症の高齢者らに、改ざんした書類に署名させるなどしていたという。同事業については全国で不正発覚が相次いでおり、行政審査の限界も指摘されている。

 「共犯者になりたくないと、ずっと悩んでいた」。福岡県広域連合に内部資料を提出し、内部告発した元従業員の一人は、自らも関わった「不正」の手口を打ち明けた。

 後期高齢者医療制度に基づく訪問マッサージ事業で、事業者が都道府県の広域連合に申請する療養費は、施術料に加え、マッサージ師の移動距離に応じた出張料が含まれる。

 複数の元従業員によると、高齢者施設など同じ建物内にいる複数人の高齢者への施術は、マッサージ師1人が1度の訪問でまとめて済ませるケースが多かった。その場合、1人分の出張料しか取れないことから、申請書では複数人のマッサージ師が訪問したことにし、複数人分の出張料を水増し申請していたという。

 広域連合に提出された申請書によると、例えば2014~15年、県内のA施設では10人弱の高齢者に、それぞれ違うマッサージ師が施術したと記されている。

 A施設関係者は取材に「特定の1人が1度に施術していた」と申請書の記述を否定。A施設を訪問したと署名があるマッサージ師は「A施設には一度も行ったことがない」と証言した。

 申請書作成に必要な高齢者と、視覚障害者が大半であるマッサージ師の認め印の一部は事務所で管理。無断での署名、押印が常態化していたという。高齢者から署名をもらう場合もあったが、元従業員は「認知症の人を優先的に選んでいた」と振り返る。

 元代表は西日本新聞の取材に「広域連合から調査を受けた事実はなく、不適切な申請(と指摘され、約1億6900万円返還)の事実もない。内部告発の資料は信義性がなく、いやがらせだ。これ以上何も言うことはない」と否定している。

   ■    ■

 高齢化で患者が急増する中、訪問マッサージや、はり・きゅうの療養費を巡る不正は後を絶たない。厚生労働省によると、後期高齢者医療制度が始まった08年度から16年11月までの間、不正額は36府県で約5万5千件、約9億5千万円に上る。

 審査する広域連合は各市町村の出向職員らで構成する行政機関。福岡県の場合、1カ月に8千件もの申請を処理するとされ、不正を見抜くには限界がある。「審査が甘いと見透かされ、お金が出る現金自動預払機(ATM)のようにみる悪質な事業者もいる」(関係者)という声も。厚労省は患者が請求を確認できる仕組みづくりなど、不正を防ぐ方策を検討している。

不正前提に審査を

 佐賀大の畑山敏夫教授(政治学)の話 後期高齢者医療制度の医療給付費の財源は、患者負担を除き、約5割は公費、約4割は現役世代の保険料で賄われている。不正な申請があることを前提に審査体制を整える必要がある。ぬるいままだと、福祉制度に対する信頼が揺らぐ。

=2018/01/03付 西日本新聞朝刊=

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