「声なき声」はどんな声?

西日本新聞

 「声なき声」とは「表だって声高に語らない人々の意見」(三省堂「大辞林」)だ。

 今年の年頭会見で、安倍晋三首相は「私も声なき声にしっかり耳を傾ける」と語った。では「声なき声」とは一体、どんな声なのだろう。

 実際の発言は「今年は戌(いぬ)年だ。犬は聴覚が優れ、人間が聞こえない音も聞き取れる。私も声なき声にしっかり耳を傾け、新しい国造りを前に進める」-という流れだった。

 首相には、国民の疑問や野党の批判に正面から向き合わないという指摘が付きまとう。説明責任もなかなか果たそうとしない。

 その不信感が昨年、内閣支持率の一時急落や東京都議選の自民惨敗につながった。以来、首相は事あるごとに「謙虚」や「反省」を口にする。

 「声なき声」も、声を上げにくい弱者の立場に寄り添うという意味で、一連の「反省」に通じるなら理解したい。

 気になるのは、その前段で語った国造りだ。持論の憲法改正と国造りを関連付けて「今年こそ新しい時代の希望を生み出すような憲法の姿を提示する」と意気込んだ。

 共同通信社の最新世論調査では、首相の下での憲法改正に反対は54・8%で賛成の33・0%を上回る。首相は調査では少数だった方が「声なき声」として私にはよく聞こえる-と言いたかったのか。

 同じ言葉を発した政治家がいる。日米安保反対闘争が激化した1960年、首相の祖父である岸信介首相は「国会周辺は騒がしいが、銀座や後楽園球場はいつも通りだ。私には声なき声が聞こえる」と述べ、沈静化を呼び掛けた。

 米国ではベトナム反戦運動が盛り上がった69年、ニクソン大統領が米国民の大多数は戦争に反対していないとして、「声なき声」と同義語の「グレート・サイレント・マジョリティー」を用いた。

 権力者が「声なき声」と言うときは注意した方がよさそうだ。自分の考えを押し通したり、失政を言い繕ったりするために「声なき声」を持ち出すなら姑息(こそく)な言い回しと言わざるを得ない。


=2018/01/22付 西日本新聞朝刊=

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